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クロマトグラフィーの核心:シリカの重要性とその活用

目次

はじめに

 クロマトグラフィーは、化学分析において極めて重要な技術です。その中でもシリカは、分離効率の高い固定相として広く利用されています。本記事では、クロマトグラフィーの基礎からシリカの特性および応用までを解説していきます。

クロマトグラフィーとは?

 クロマトグラフィーとは、混合物(試料)と固定相および移動相の間での相互作用の差を利用して、混合物を分離・検出する分析手法です。固定相と移動相は、互いの界面を介して接触し、一定の状態で安定した平衡状態を保っています。

 移動相には気体、液体、超臨界流体などが用いられ、カラムと呼ばれる管内に保持された固定相との相互作用に基づき、試料中の各成分が異なる速度で移動します。これにより、各成分の分離・検出が可能となります。

 クロマトグラフィーの創始者はロシアの植物学者ミハイル・ツヴェット(M. Tswett)であり、彼はガラス管に炭酸カルシウムを詰め、葉緑素に石油エーテルを流して層を着色・分離し、これを「クロマトグラフィー」と命名しました。1)

 クロマトグラフィーの名前の由来は、ギリシャ語で「色」の意味の“Chroma”と「記録」の意味の“Graphos”からの命名と言われています。

 クロマトグラフィーには、液体、ガス、薄層、高速液体クロマトグラフィーなどがあります。

液体クロマトグラフィー (LC): 液体を移動相として使用し、固定相はシリカや樹脂が用いられる。
ガスクロマトグラフィー (GC): 気体を移動相として使用し、揮発性成分の分離に適している。
薄層クロマトグラフィー (TLC): 薄いシリカゲル層を固定相とし、展開溶媒で成分を分離。
高速液体クロマトグラフィー (HPLC): 高圧を用いて液体を流し、効率的な分離を行う。

 ここに示しましたすべてのクロマトグラフィーにシリカは使用されていますが、特にシリカが重要視されている液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィーについて解説していきます。

液体クロマトグラフィー

 液体クロマトグラフィー(Liquid Chromatography, LC)とは、液体を移動相として用いるクロマトグラフィーの一種です。固定相としては、固体または固体表面に官能基を化学的に結合させた細かい粒子(充填剤)が用いられます。これらの充填剤を充填した円筒状の容器を「カラム」と呼びます。

Fig1. 液体クロマトグラフィーのイメージ図

 試料は、基本的に移動相中で安定に溶解できる物質が適用されます。液体クロマトグラフィーの利点は、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析が困難な不揮発性物質や熱分解しやすい物質も分析できる点にあります。また、試料は液体状態でカラム内に導入され、分離が行われます。

 液体クロマトグラフィーにおいて、移動相をカラム入口から導入すると、試料中の各成分はカラム内の固定相および移動相との相互作用の違いにより、移動速度が異なります。これにより、ある成分は速やかに下流へと移動し、別の成分は固定相に強く保持され、移動が遅れます。この差異に基づき、各成分が時間差で分離されます。

Fig2に液体クロマトグラフィーによる分離のイメージを示します。

 例えば、固定相の相互作用が成分A<成分B<成分Cのような成分を分離する場合、成分A, B, Cを移動相に溶解して混合液を調製して、カラムに流し込みます。更に移動相を流し込むと、固定相との相互作用が小さい成分Aが早く分離され、次に成分B、相互作用が大きなCは最後に分離されます。

 この分離は時間ととも行われるため、カラム出口に試料濃度に応答する検出器を設置し、その信号をモニターすると、混合物が各成分に分離され、それぞれ異なる時間に溶出する様子をリアルタイムで観察できます。

 横軸に時間、縦軸に試料濃度をプロットした波形を「クロマトグラム」と呼び、各成分の分布のピークが観測されます。これにより、成分の識別および定量が可能となります。

Fig3.クロマトグラムの一例2)

高速液体クロマトグラフィー

 近年、分離能向上を目的としてカラム充填剤の粒子が微細化されてきました。しかし、微粒子化に伴いカラム内部の圧力が上昇するため、移動相を高圧で送液するシステムが必要となりました。これが「高速液体クロマトグラフィー(High-Performance Liquid Chromatography, HPLC)」です。

 HPLCシステムの構成は以下の通りです:

送液ポンプ:移動相を一定速度でカラムへ送液する。
試料導入装置:混合試料を正確な量でカラムに導入する。
カラム:充填剤が詰められた円筒状の分離部。
検出器:分離された成分をリアルタイムで検出し、クロマトグラムとして記録する。

 HPLCの構成により、不揮発性物質や熱分解しやすい物質の高精度な分離分析が可能となります。

Fig4.HPLCの装置構成3)

クロマトグラフィーにおける相互作用と極性の関係

 クロマトグラフィーおいてシリカを取り扱う際に極性は非常に重要ですので、ここでは、相互作用と極性の関係を解説します。

クロマトグラフィーの分離原理は、固定相と移動相の間で起こる相互作用の差異を利用して試料成分を分離することに基づいています。この相互作用の強さは、主に極性に依存します。

極性とは?

極性とは、分子内の電荷の偏りのことで、極性分子、非極性分子に分けることができます。

極性分子:分子内に電荷の不均一があり、部分的に正電荷と負電荷が存在する(例:水、アルコール)。

非極性分子:電荷の偏りがなく、全体として電荷が均等に分布している(例:ヘキサン、ベンゼン)。

極性と相互作用

 クロマトグラフィーで主要な相互作用は以下の通りです。

 Table1.クロマトグラフィーにおける主要な相互作用

クロマトグラフィーにおける極性の影響

 クロマトグラフィーは、固定相と移動相の極性により、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーに分類されます。

順相クロマトグラフィー(Normal Phase Chromatography)

 固定相が極性で、移動相が非極性のもの(親油性)で、固定相によくシリカが用いられます。

固定相:極性(シリカ、アルミナ)
移動相:非極性(ヘキサン、トルエン)

 順相クロマトグラフィーでは、極性が高い成分は固定相に強く保持されるため、移動速度が遅くなる傾向があります。

逆相クロマトグラフィー(Reversed Phase Chromatography)

 順相とは反対に、固定相が非極性で、移動相が極性のもの(親水性)で、一般的に固定相にはシランカップリング剤で表面を疎水化したシリカ(C18シリカ、Cシリカ)が用いられます。

固定相:非極性(C18シリカ、C8シリカ)
移動相:極性(水、メタノール)

 逆相クロマトグラフィーでは、非極性成分が固定相に強く保持されるため、極性成分は速く溶出する傾向があります。

 Table2にシリカと極性の関係を示します。

Table2.シリカと極性の関係

シリカの吸着機構と極性の関係

 シリカ(SiO₂)の表面にはシラノール基(–Si–OH)が存在し、これが極性基として作用します。

 アルコールやアミンは極性化合物です。
 
 アルコールは、アルコールの水酸基とシラノール基で水素結合を形形成し、固定相であるシリカに強く吸着されます。水素結合による吸着は、フェノール、カルボン酸、ケトンでも起こります。

一方アミンは、シラノール基はマイナスの電荷を持っていて、アミンはプラスの電荷を持っているため、イオン結合により固定相であるシリカに強く吸着されます。

Fig5に、シラノール基の吸着機構について示します。

Fig5.シラノール基の吸着機構

 ちなみに、非極性化合物(アルカン、芳香族化合物など)は、シリカとほとんど相互作用(吸着)しないため、早く溶出します。

クロマトグラフィーに用いられるシリカ

クロマトグラフィーにおいて、シリカ(SiO₂)は最も広く使用される固定相の一つです。

先にも述べたように、シリカの表面にはシラノール基(Si–OH)が存在し、これが極性化合物との相互作用の起点となります。これにより、シリカは極性分子を強く保持し、選択的な分離を可能にします。

シリカは主に以下の形態で用いられます

シリカゲル:多孔質で高い表面積を持ち、吸着性能に優れる。
球状シリカ:均一な粒径分布で、カラム内の流路を安定化させる。
化学修飾シリカ:シラノール基に疎水性または親水性の官能基を導入し、分離特性を調整。

 シリカゲルには、不定形状と球状タイプがあり、更に、これらを化学修飾(表面処理)したタイプがあります。

 クロマトグラフィーにおいてシリカゲルが求められる条件として、形状、粒子径、多孔質構造、官能基の4つがあります。

Fig6.クロマトグラフィーにおいてシリカゲルが求められる条件

形状

 シリカゲルには、不定形状と球状の2種類の形状があります。

不定形状シリカゲル

不定形状シリカゲルは、その形状が不規則であるため、カラム内への均一な充填が難しくなります。また、微粉が発生しやすいため、圧力損失が大きくなりがちです。これにより、球状シリカと比較すると分離性能が劣る傾向がありますが、価格面では安価であるというメリットがあります。

球状シリカゲル

一方、球状シリカゲルは、均一な形状を持つためカラム内への充填が安定しやすく、微粉の発生も抑えられます。これにより、不定形状に比べて圧力損失が小さく、分離性能が高いという特長があります。ただし、製造コストが高いため、価格は不定形状に比べて割高です。

Fig7.シリカゲルの形状

粒子径

 シリカゲルは、いろいろな粒子径のものが、衣食住をはじめさまざまな用途に用いられてます。

 Fig8では、シリカゲルの各用途に対する最適粒子径を示したものになります。

 クロマトグラフィーに使用されるシリカは、カラムに充填して使用するため、数百µmから、数µm程度のものが用いられてて、サイズの大きなものは、液体クロマトグラフィー、サイズが小さく数µm程度のものは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に用いられています。

 クロマトグラフィー用のシリカゲルは、分離性能を高くするために、シャープな粒度分布用いられるため、電気的抵抗法(コールターカウンター法)で測定するのが一般的です。

 粒度分布の測定方法は、記事『粒や粉のサイズ、どう測る?シリカの粒度測定ガイド』で詳しく解説しています。

 

Fig8.シリカゲルの粒子径と用途

多孔質構造

 シリカゲルは、3~10nmのシリカ一次粒子がゲル化によって凝集し、二次粒子が形成されます。この二次粒子を所定の粒子径に制御したものが製品となります。また、一次粒子同士の隙間は「細孔」と呼ばれ、シリカゲルはこの細孔が多数存在するため、多孔質構造を有します。さらに、一次粒子の集まり方を調整することで、細孔構造を制御することが可能です。 

 この一次粒子の大きさと集まり方で、RD形、A形、B形、ID形の4つのタイプに分類することができます。

Fig9.シリカゲルの形(タイプ)

 RD形やA形は、一次粒子径が3~4nm程度と比較的小さいため、比表面積が大きな分、細孔容積は小さくなります。このため、平均細孔径も2.2nm程度と小さくなります。

 B形は、RD形やA形よりも一次粒子径が6nm程度大きいため、比表面積が小さい分、細孔容積は大きくなります。このため、平均細孔径も7.0nmと、RD形やA形に比べて大きくなります。

 ID形は、一次粒子径が8~9nmと大きいため、比表面積が4つのタイプの内最も小さい反面、細孔容積は最も大きくなります。

Table3.シリカゲルのタイプ別の比表面積、細孔容積、平均細孔径

 クロマトグラフィー用のシリカゲルは、平均細孔径を任意に制御したものが用いられることがありますが、細孔容積はいずれか4タイプにあてはまります。また、平均細孔径が大きくなるほど、表面積は小さくなる傾向があります。

 シリカゲルについてもっと詳しく知りたい方は、記事『シリカゲル』を参照ください。

官能基

 前述のシリカゲルをベースに表面処理を施すことで、官能基がシリカゲル表面に存在するシラノール基(Si–OH)と置換反応を起こし、その結果、官能基がシリカゲル表面に化学的に修飾されることになります。

 オクタデシルシラン(ODS)で表面処理を施した疎水化シリカは、逆相クロマトグラフィーの代表的な充填剤として広く使用されています。

 オクタデシルトリクロロシランは、以下のようにシラノールと結合します。このときシラノール基のHと置換したオクタデシル基は、Cが18個あるので(C18)疎水性が非常に高いものとなります。一方、H+はClと結合して副生成物として塩酸が生成するので、強酸性の系となります。

Table4にクロマト用シリカゲルに使用される主なシランカップリング剤を示します。

Table4.クロマト用シリカゲルに使用される主なシランカップリング剤5)

 クロマト用シリカゲルに使用されるシランカップリング剤は、オクタデシルクロロシラン(ODS-TCS)の他に、オクタデシルトリメトキシシラン(ODS-TMS)があり、これらは最も一般的な強疎水性を有した逆相HPLC用シリル化剤として用いられています。オクチルトリクロロシラン(C8-TCS)は、C18より疎水性が低く、分離の選択性を調整可能という特徴があります。

 更に炭素の鎖長を短くしたテトラトリクロロシラン(C4-TCS)は、、C8より更に疎水性が低くなります。また、フェニルトリクロロシランは芳香族選択性のある固定相(π–π相互作用)に用いられます。更にトリメチルクロロシラン(TMCS)は、トリメチルクロロシラン(TMCS)シラノール封鎖用キャッピング剤(残存–Si–OHを不活性化)に用いられます。

 以下に、主なクロマト用表面処理シリカゲルの構造式を示します。

エンドキャッピング処理

クロマト用シリカゲルを表面処理する際にエンドキャッピング処理が非常に重要です。

 エンドキャッピング処理とは、反応後に残ったシラノール基をより小さな分子のシリル化剤で処理することで、表面から親水性であるシラノール基を無くす方法です。

Fig5.エンドキャッピング処理4)

特殊な分離用

アミノ処理シリカゲル

 アミノ基は糖類のケトン、アルデヒド基と特異的な相互作用を示すことが知られています。アミノ系のシランカップリング剤でシリカゲルのシラノール基とアミノプロピル基を置換したシリカゲルは、単糖類のフルクトースとスクロースを分離できることが報告されています5)また、Ni、Cu、Pdの重金属が吸着できることが報告されています6)

 ベースとなるシリカゲルは、球状で、平均粒子径100µm、細孔径は10nmのタイプが使用されています。

基本は水系(逆相)で使用しますが、順相でも使用できるのが特徴です。

ポリエチレンイミン修飾(PEI)シリカゲル

 高分子アミノポリマーをシリカゲル表面に修飾したシリカゲル。

 強塩基性化合物の分離に適しているのが特長で、ベンジルアミンの分離や、キニーネやベンゾイミダゾールが分離できることが報告されています。7)

ベースとなるシリカゲルは、球状で、平均粒子径30µm、平均細孔径は10nmのタイプが使用されていて、平均粒子径が60µm。100µmものもあります。

 

アルギニン修飾(ARG)シリカゲル 

 一般的に水溶性化合物の分離は、C18(ODS)シリカ等により逆相クロマトグラフィーで行われます。しかし、高親水性化合物の分離は困難な場合があります。このため、親水性相互作用クロマトグラフィー(HLIIC)という手法が開発されました。

 HILIC とは、液体クロマトグラフィーの一種で、固定相と移動相の両方が極性を持つクロマトグラフィーです。特に、逆相クロマトグラフィーで分離が難しい極性化合物(高親水性化合物)の分離に適しています。

 アルギニン修飾(ARG)シリカゲルは、HILIC用のシリカゲルで、従来の逆相モードで困難であったアミノ酸、ペプチド、ビタミン、核酸などの分離が報告されています。8)

 ベースとなるシリカゲルは、球状で、平均粒子径30µm、平均細孔径は10nmのタイプが使用されています。

トピックス

超臨界クロマトグラフィー

 超臨界状態とは

 物質は、温度および圧力の条件により、固体-液体-気体の3つの状態をとります。

 例えば、1気圧での水を考えると、氷点下では「氷」、0℃でとけて「氷→水」になり、100℃で蒸発して「水→水蒸気」になります。この時、液体と気体「水―水蒸気」が一緒に存在する温度(1気圧では100℃)は、圧力が大きくなるとともに高温になり、その上限が臨界点と呼ばれています。

 この臨界点を超えた状態が超臨界状態と呼ばれ、気体をいくら圧縮しても液体にはならず密度のみが高くなり、液体に匹敵した超臨界流体になります。

 この超臨界流体は、第4の状態と呼ばれることもあります。9

Fig6.物質の三態と超臨界流体の相図10)

超臨界二酸化炭素

超臨界流体の密度は液体に近く、物質をよく溶かします。粘性は液体より気体に近い値を示し、超臨界流体中の物質の移動速度(拡散係数)は液体と気体の中間くらいになります。総じて、超臨界流体は液体と気体の中間の性質を示し、温度と圧力を変えることによって性質を大きく変化させることができます。これにより、超臨界流体はクロマトグラフィーの移動相、抽出、化学反応の溶媒など、さまざまな用途に使われています。10

すべての物質は臨界点以上で超臨界状態となりますが、臨界圧力や臨界温度が高いものは実用的ではありません。現在、超臨界流体として幅広い分野で使われているのは二酸化炭素です。二酸化炭素は臨界温度31.1℃、臨界圧力7.38 MPa という扱いやすい条件で超臨界状態にすることができ、次のような特長を有しています。

化学的に不活性で毒性がありません。

引火性や化学反応性がないため安全です。

無極性のため油脂などをよく溶かします。

二酸化炭素は常温常圧下で気体となって放出されるため、溶媒除去や濃縮などの後処理が容易です。

高純度な二酸化炭素を低価格で入手できるため、低ランニングコストを実現できます。

石油化学工場などから排出された二酸化炭素を回収、精製して使用しているため、二酸化炭素排出量を増加させません。

 以下の動画は、二酸化炭素の状態変化(超臨界流体→液体・気体)を示したものになります。

このたびは〇〇(故人)様の突然の訃報に驚いております。
ご逝去を悼み、心よりお悔やみを申し上げます。

 超臨界流体クロマトグラフィー(Supercritical Fluid Chromatography、以下SFC)は、超臨界流体を移動相に用いたクロマトグラフィーで、超臨界流体は二酸化炭素が用いられます。

 超臨界流体は液体に比べて粘性が1 桁以上小さく、超臨界流体中の物質の拡散係数は液体中より数百倍の値となります。そのため、SFC は移動相の流速を大きくしても高い分離効率が得られるので、液体を移動相とする高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、以下HPLC)と比較し、高速な分離を行うことが可能です。また、超臨界流体の

 密度や性質は、圧力や温度によって変化するため、圧力と温度が分離を調整するための有力な操作条件となります。さらに、超臨界流体にモディファイアーと呼ばれるアルコールなどの補助溶媒を混合することにより、移動相全体の性質を変化させ、保持時間や分離を調整することが可能です。

  二酸化炭素の極性はヘキサンと同程度であり、基本的には非極性の物質の分離に適しています。

そのため、シリカゲルを充填剤としたカラムを用いると、順相クロマトグラフィーのような保持挙動を示します。

また、逆相クロマトグラフィーで用いられる充填カラムを利用することも可能です。

このとき、とくに極性が高い物質を分離するときには、モディファイアーを用います。  

さらに極性が高い物質を分離する場合には、モディファイアーの添加量を増やす必要があります。9)

Fig7.超臨界ニ酸化炭素クロマトグラフィーの構成

 超臨界二酸化炭素クロマトグラフィー(SFC)は、酸性・中性・塩基性化合物、脂質、両性物質に加え、アキラル化合物や高極性化合物の分析にも用いられるようになり、分析対象とする試料の幅がますます広がっています11)

 こうした動向に対応するかたちで、固定相に最適化されたシリカ材料の開発も進められており、今後さらなる応用拡大が期待されています。

ワクチン精製

 ワクチンの精製にもクロマトグラフィーは欠かせません。

 国立医薬品食品衛生研究所では、シクレソニド活性代謝物(Cis)を有効成分とした、コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス作用を有するワクチンを開発し、特許公開されています。

Fig8.シクレソニド活性代謝物の一例12)

 Fig9.シクレソニド活性代謝物コロナワクチンの合成経路12)

  シクレソニド活性代謝物(Cic)の内、Cic3~9、Cis11Cic4、Cic5、Cic6、Cic6、Cic7、Cic8の精製に、カラムクロマトグラフィーの固定相にシリカゲルが使用されています。 

カプサイシンの分離

 カプサイシン(Capsaicin、C18H27NO3) は、バニリルアミンと脂肪酸がアミド結合したカプサイシノイドと呼ばれるアルカロイドの一種です。

 

Fig10.カプサイシンの構造13)

 カプサイシノイドはナス科トウガラシ属の果実内部の胎座や隔壁に多く含まれ、カプサイシンと同程度の辛みをもたらすジヒドロカプサイシンや半分程度の辛みをもたらすノルジヒドロカプサイシンなど、脂肪酸部分の構造が異なる10種以上の同族体があります。

 この、カプサイシンやカプサイシノイドの抽出にも固定相としてシリカゲルが用いられています14

最近では、カプサイシンやカプサイシノイドにエネルギー代謝を促進する効果が認められ15、健康食品として錠剤が販売されています。

成分分離、錠剤成形両方にシリカが使用されるケースが多く、みなさまの直接目に触れる機会は少ないとは思いますが、陰の立役者になっています。

 錠剤成形については、『シリカと医薬品』を参照ください。

まとめ

 合成シリカの中でも シリカゲル は、粒子径、比表面積、細孔容積、細孔径を厳密にコントロールできる特性を持ち、順相の液体クロマトグラフィー(Normal Phase Liquid Chromatography, NPLC)の固定相として広く使用されています。これらの物性が厳しく要求されるNPLCにおいて、シリカゲルの均一な細孔構造が安定した分離性能を発揮します。

さらに、シリカゲルの表面のシラノール基を オクタデシル基(C18基) で修飾したものは、逆相液体クロマトグラフィー(Reverse Phase Liquid Chromatography, RPLC)の固定相として利用されます。疎水性化されたシリカゲルは、疎水性化合物の分離に優れた効果を発揮します。

 また、特殊な表面処理を施したシリカゲルは、糖類の分離、重金属の吸着、さらには 親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC) にも応用されています。これにより、従来のクロマトグラフィーでは分離が難しかった成分の分離・精製が可能となります。

 近年注目されている 超臨界クロマトグラフィー(Supercritical Fluid Chromatography, SFC) でも、シリカゲルが固定相として用いられています。
 SFCは従来の液体クロマトグラフィーでは分離が難しかった物質の分離が可能であり、環境負荷の少ないプロセスとして注目されています。

さらに、シリカゲルの応用範囲はクロマトグラフィーにとどまりません。
 新型コロナウイルスのワクチン精製 や カプサイシンの抽出 にも使用されており、得られた抽出物の錠剤化にもシリカが活躍しています。

このように、シリカはクロマトグラフィーと錠剤化の二刀流の素材 として、その存在感を高めています。

参考文献


1)Tswett, M., “Physico-chemical Studies of Chlorophyll: The Adsorption Analysis,” Berichte der Deutschen Botanischen Gesellschaft, 24: (1906), 384-393.
2)日本分析機器工業会HPより引用https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/chromatograph/principle/
3)藤崎 真一, ぶんせき 2024.5 pp. 152-156.
4)ジーエルサイエンス株式会社HPの図をもとに筆者一部加筆https://www.gls.co.jp/technique/technique_data/lc/usage_of_hplc/P1_3.html
5)富士シリシア化学株式会社 テクニカルブレタン 糖類の分離に ChromatorexⓇ NH-DM10120SG 1611096
6)富士シリシア化学株式会社 https://www.fuji-silysia.co.jp/products/p876/
7)富士シリシア化学株式会社 テクニカルブレタン 塩基性物質の分離に ChromatorexⓇ PEIシリカ15121013
8)富士シリシア化学株式会社 テクニカルブレタン 水溶性化合物の分離に ChromatorexⓇ ARGシリカ
9)東北大学 超臨界流体とは https://www.che.tohoku.ac.jp/~scf/aboutscfz.html
10)日本分析機器工業会https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/chromatograph/sfc/
11)桑島 幹 超臨界流体クロマトグラフの原理と応用JAIMA, Season 2018 Spring pp.3-5.
12)新規化合物及び抗コロナウイルス剤 特開2022-84098
13)農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/capsaicin/syousai/index.html#no1
14)トウガラシからのカプサイシノイド様物質の抽出方法 特許第4637377
15)Ohnuki et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol., 47, (2001) pp.295-298.

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