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笛田・山田技術士事務所

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「湿度を“見える化”するシリカ:湿度インジケーターシリカゲルの原理と応用」

目次

はじめに


 湿度は多くの製品にとって品質や寿命に直結する重要な環境因子です。特に電子部品、精密機器、医薬品などの分野では、過剰な湿度は腐食や劣化の原因となります。これらの湿度管理において、簡便かつ視認性の高い手段として活用されているのが「湿度インジケーターシリカゲル」です。本記事では、その原理、種類、用途、そして規制動向までを網羅的に解説します。

湿度インジケーターシリカゲルとは

湿度インジケーターシリカゲルは、吸湿性を有するシリカゲルに、湿度に応じて色が変化する指示薬(着色剤)を担持させたものです。この色変化により、使用環境の相対湿度を一目で確認することが可能となります。一般的な白色のシリカゲルとは異なり、青や橙などの色を持ち、湿度の上昇によって色が変化します。

使用されるシリカゲル

 湿度インジケーターシリカゲルはA型シリカゲルで、JISで定められた乾燥用のシリカゲルが使用されています1)

 シリカゲルは、比表面積、細孔容積、平均細孔径でRD, A, B, IDに分類されます。

 この内A形は、一次粒子が2~3nmと小さいため、比表面積が650m2/gと大きく、細孔容積0.36ml/gも小さいため、細孔の入り口の径(細孔直径)が2.2nmと小さくなります。

Fig1.シリカゲルの構造(イメージ)と比表面積、細孔容積、平均細孔径の代表値

 シリカゲルの水の吸着は、物理吸着、化学吸着の二段階で行われます。

 化学吸着はシラノール基によるもののため、比表面積が大きいほど水の吸着能力が高くなります。

 物理吸着は、毛細管現象(毛管現象)により吸着され、管径が小さいほど細孔内に水を引っ張り込む力が大きくなります。

 もう少し詳しくお話しますと、最初にシラノール基の水素結合により水が吸着され、細孔表面に薄い水膜(単分子吸着層)が形成されます。

 次に、シリカゲルの細孔はナノサイズと非常に狭いため、水の細孔内に引っ張り込む力(吸着能力)が強く、この二段階により水が吸着されます。

Fig2.シリカゲルの表面と水吸着のイメージ

 毛管現象とは、細い管(毛細管)の中で液体が自然に上昇または下降する現象です。これは液体の表面張力と、液体と管の内壁との間に働く付着力によって起こります。たとえば、水がガラス管の中で重力に逆らって上昇するのは、ガラスと水の引力が水同士の引力より強いためです。

 この現象は、植物が根から水を吸い上げる仕組みや、紙や布が水を吸い取る動きなど、身近な場面でも見られます。

Fig3.毛細管現象(毛管現象)

 このようにA形シリカゲルは、強い化学吸着と物理吸着の二刀流の効果により、シリカゲルの細孔内に水を取り込む力が高い、いわゆる乾燥力が高いタイプのシリカゲルとなります。

 また、シリカゲルの吸着は、比表面積、細孔容積、細孔径を制御することでRD、A、B、IDタイプで異なった吸着を示します。

Fig4.25℃におけるシリカゲル各種の吸着等温線

 吸着等温線とは、一定温度のもとで、気体が固体表面に吸着される量と圧力(または相対圧)との関係を示したグラフのことです。固体がどれだけ気体を吸着できるかを知るために使われ、横軸に圧力、縦軸に吸着量をとります。

 この曲線の形から、吸着の仕組み(単分子層か多層か、微細孔の有無など)や、比表面積や細孔分布といった材料の性質を評価できます。

 吸着の詳細については記事『シリカと吸着』を参照ください。

 吸着等温線が温度によって吸着量が変化するため文字通り温度が重要で、何度で測定したかということを示す必要があります。

 25℃において、シリカゲルA型、RD形は、相対圧0.1の低い領域でも吸着するため、これらのタイプのシリカゲルは、非常に水を吸う力が強い、つまり乾燥能力が高いシリカゲルになります。

 このため、湿度インジケーターシリカゲルにはA形シリカゲルが用いられます。

 シリカゲルの吸着の関係については、記事『シリカゲル』で詳しく解説していますので、参照ください。

湿度インジケーターの動作原理と色変化メカニズム

シリカゲルは高比表面積の多孔質材料で、なかでもA形シリカゲルは比較的水の吸着能力(乾燥能力)が高いため、湿度インジケーターシリカゲルのベースとして用いられています。

このA形シリカゲルに湿度インジケーター剤を担持したものが、湿度インジケーターシリカゲルです。

湿度インジケーター剤には、吸着水との錯体形成により湿度インジケーターが発現するタイプのものと、pHの変化によるもの2つに大別されます。

錯体形成によるもの

錯体形成の性質を利用したものは、塩化コバルト、鉄ミョウバン、塩化銅などを用いたものがあります。

塩化コバルトのタイプを例にしてメカニズムを解説します。

塩化コバルトをA形シリカゲルに担持させたシリカゲルは通称青ゲルと呼ばれ、長年湿度インジケーターシリカゲルとして使用されてきました。

塩化コバルトに水を加えると次のような反応が起こり、ヘキサアクアコバルト(Ⅱ)イオンが生成します。

このとき塩化コバルトは青色ですが、ヘキサアクアコバルト(Ⅱ)イオンは暗紫色を示します。2)

CoCl2  + 6H2O ⇄  [Co(H2O)6]2+  +  2Cl

 更に、塩酸を加えると、水分子と塩化物イオンの交換が起こり、水を除くことで青色のテトラクロロコバルト(Ⅱ)酸イオン [CoCl4]2- が生成します。2)

[Co(H2O)6]2+ +  4Cl  ⇄  [CoCl4]2-   +  6H2O

 この現象を、湿度インジケーターシリカゲルにあてはめると次のようになります。

 まず、シリカゲルに塩化コバルトを担持させるには、通常液体にしてから含浸や噴霧等で担持させて、乾燥行います。

 担持方法については、『シリカと表面処理』を参照ください。。

 塩化コバルトは通常2価の金属なので、一部がシラノール基のHと置換して、プロトン(H)が放出されます。3)

このプロトンと塩素イオンが反応して塩酸が生成して、その塩酸と反応して、乾燥をさせることにより、ト(Ⅱ)酸イオン[CoCl4]2- が生成します。

このテトラクロロコバルト(Ⅱ)酸イオン[CoCl4]2-は、乾燥時は青色を呈し、水の配位数により徐々の暗紫色に変化し、最高6配位で暗紫色に変化します。

 Fig5.塩化コバルト担持湿度インジケーターシリカゲルの変色メカニズム

 配位数により色調がコントロールすることができます。先に示したようにA形シリカゲルの吸着量は相対圧つまり相対湿度で決まっているため、湿度インジケーター性能を発現することができます。

 Fig6に塩化コバルト湿度インジケーターシリカゲルの乾燥から相対湿度(RH)50%までの色調変化を示します。

Fig6.塩化コバルト湿度インジケーターシリカゲルの相対湿度の色調変化

 RH0%では青色を呈していて、相対湿度の上昇とともに、色が薄くなりRH50では殆どが青紫色を示しています。

 塩化コバルトの湿度インジケーター機能は、化学オリンピックでも出題されています。

 また、塩化コバルトは、発がん性物質として認定されており4)、欧州連合のREACH規制では、使用や輸出には制限が加えられています。日本でも、化学物質管理に関する法規(化管法・PRTR制度など)により、安全データシートや表示義務が求められます。これらを受け、近年では環境対応型の非コバルト系指示薬への切替が進められています。

 金属錯体を利用する湿度インジケーター剤は、塩化コバルトの他に、塩化銅、鉄みょうばんを用いたものがあり、こおれらは、REACH規制等の環境規制の影響で注目されています。

 REACH規制とは、EU域内で製造・輸入されるすべての化学物質に対して、企業に対し物質の特性やリスクを自ら評価・登録することを義務付け、人の健康と環境の保護、および化学物質の安全な使用を目的としたEUの包括的な化学物質規制です。

 銅系錯体は、乾燥時は乾燥時は橙色を示し、湿潤時は緑に呈色します。鉄みょうばんは、乾燥時、橙色を示し、湿潤時は黄色に呈色します。これらの湿度インジケーター剤は、塩化コバルトに比べて発がん性のリスクが低いですが、反応が緩やかなため、視認性はやや劣ります。

pH制御によるもの

 A形シリカゲルに、pH指示薬を担持させたものがこのタイプです。湿度インジケーター剤には、ニュートラルレッド、サフラニンなど有機物を使用しているため、有機系湿度インジケーター剤として用いられています。

 ニュートラルレッドをもとに変色メカニズムを解説します。

 ニュートラルレッドは次のような構造を有しています。

ニュートラルレッドは、生物学や化学において、染色やpH指示薬として使用される色素です。特に、生体染色や細胞毒性試験で用いられ、pH6.8~8.0で変色するpH指示薬としても使用され、酸性では赤色、アルカリ性では黄色に呈色します。

Fig5にニュートラルレッドの変色の用紙を示します。

Fig5.ニュートラルレッドの変色の様子

 ニュートラルレッドは、酸性環境ではプロトン(H+)を分子に取り込みます。このプロトン化により、分子の構造が変化し、電子構造が赤色に変化します。

 一方、アルカリ性環境では、ニュートラルレッドはプロトンを失います。この脱プロトン化により、分子の構造が変化し、電子構造が黄色に変化します。

 これらは、分子内の共役な結合構造が変化し、吸収する光の波長が変化するためです。

 この原理を踏まえて、A形シリカゲルに担持させた場合について解説をしていきます。

 ニュートラルレッドを担持させた湿度インジケーターシリカゲルは、乾燥時(RH0%)は青色、RH17%では紫色、33%では赤紫色を示します。

Fig6.相対湿度に対する変色

 ニュートラルレッドのpH指示薬としての変色域はpH6.8~8.0で変色するpH指示薬としても使用され、酸性では赤色、アルカリ性では黄色に呈色しますが、さらに強い酸領域では青色を呈します。

 A形シリカゲルの5wt%スラリーのpHは4~5程度ですが、表面にシラノール基があり、ニュートラルレッドの吸着に伴い、シラノール基のHと交換してプロトンが発生します。

 このプロトンがニュートラルレッドと結びつきシリカゲルの表面では、非常にpHが低い状態となるため青色を呈して、シリカゲルが水を吸着するとプロトンが外れるためピンク色に呈色すると考えられます。

 pH指示薬をシリカゲル湿度インジケーターに用いる場合、pHと呈色域に加えてシラノール基とのプロトン交換も考慮に入れる必要があります。

 筆者は、このプロトン交換機能を更に向上させることにより視認性を高めた、湿度インジケーターシリカゲル開発に、基礎研究から生産工程確立、商品化まで一貫して従事する機会をいただき、商品化に成功して現在もご愛顧いただいております。

Fig8.開発した湿度インジケーターシリカゲルの湿度応答性

 こちらの湿度インジケーターシリカゲルについては、記事『シラノール基』で解説していますので併せて参照ください。

金属錯体系と有機系(pH指示薬系)のメリット、デメリット

 金属錯体系と有機系(pH指示薬系)のメリット、デメリットをTable2に示します・。

Table2.金属錯体系と有機系のメリットデメリット

 金属錯体系(塩化コバルト)は視認性が高く、吸湿に対して迅速な応答性、耐熱性、光安定性が高いですが、REACHなどの規制に制限があります。

 一方、有機系は視認性が金属系より劣り、応答性が遅い、耐熱性、光安定性が劣りますが、REACHなどの規制はなく、分子設計により湿度応答性、色を自由設計できるという利点があります。

用途

 湿度インジケーターシリカゲルは、電子、精密機器、医薬化学品、工業製品の包装、軍事、航空宇宙、文化財保存、家庭用精密機械、食品、試験、校正用など幅広い用途の防湿剤と湿度監視に使用されています。

 つまり、乾燥と湿度監視の二刀流で使用されていて、交換時期、輸送中の吸湿有無の確認を行うためには不可欠な素材となります。

Table3に湿度インジケーターシリカゲルのおもな用途一覧を示します。

Table3.湿度インジケーターシリカゲルのおもな用途一覧

 湿度インジケーターシリカゲルは、食品から医薬、電子材料と、一般家庭向けから工業向けまで幅広い用途で使用されていることがおわかりいただけたかと思います。

 中でも湿度インジケーターシリカゲルが、工業的に非常に重要な位置付けとして使用されている例を2つ挙げます。

シリコンウェハー

 電子精密機器については、湿気による腐食防止に使用されるシリカゲルの乾燥と吸湿の有無の判断、特にシリコンウェハー表面に水分が残っていると、ウェハ表面に汚れが付着し、それがデバイスの動作に影響を与えたり、デバイスの寿命を短くしたりする可能性があります。

 このため、輸送や保管中には防湿管理は重要です。

 シリコンウェハーは、数層に防湿包装されていて、その層の間に湿度インジケーターシリカゲルが透明な小袋等(不織布等)に入れられています。

 湿度インジケーターシリカゲルは、色の変化によって周囲の湿度状態を視覚的に確認できるため、シリコンウェハーの吸湿の有無を簡判別することができます。

 湿度インジケーターシリカゲルは吸湿したシリコンウェハーが誤って次工程に進むことを防止でき、製造工程全体におけるシリコンウェハーの品質維持・向上に貢献しています。

 

Fig9.シリコンウェハーの防湿包装 5)

ブリーザー

 「ブリーザー」とは、英語の「breather」(息抜き、通気孔)に由来し、主に機械内部の空気や圧力を調整・排出するための部品や装置を指します。

 油圧装置には特に重要で、作動油タンクやその他の密閉された空間で、液体の増減に伴う空気の吸排気を行う際に、外部からのダストや湿気の侵入を防ぎ、内部の清浄度を保つ役割があります。これにより、機械の摩耗を防ぎ、潤滑油の寿命を延ばします。

 なかでも変圧器に使用される絶縁油の管理に湿度インジケーターシリカゲゲルは欠かせません。

 変圧器とは、電磁誘導の原理を利用して、交流電圧を変換する(上げたり下げたりする)電気機器です。

 発電所で作られた高電圧の電気を家庭や工場で使える電圧に調整したり、逆に遠くまで効率的に送電するために電圧を上げたりする際に不可欠な装置です。

 変圧器にオイルが入っているのは、電気を絶縁し、発生する熱を冷却するという二つの重要な役割を果たすためです。

 変圧器に使用される絶縁油(トランスオイル)は、使用中に劣化するため、定期的な交換や保守管理が必要です。特に高圧線用の大型変圧器では、外部に設置したタンクから絶縁油を常時供給する方式で行われます。

 この外部タンクには通気管が設けられており、外気が取り込まれる構造となっていますが、通気管を通じて水分や埃などの異物が混入する可能性があります。埃はフィルターで除去できますが、水分は除去が難しく、絶縁油に混入すると導電性が生じ、ショートや絶縁不良の原因となるおそれがあります。

 この問題に対処するために、湿度インジケーターシリカゲルを封入したブリーザーを通気管に設置します。フィルターの後段にこのブリーザーを設けることで、吸気中の水分を効率よく吸着し、絶縁油への水分混入を防止します。さらに、シリカゲルの色変化により交換時期が一目で確認できるため、保守作業の効率化にも寄与します。

Fig10.変圧器とブリーザー6)

 絶縁油タンクは、空調設備がない小屋や屋外に設置されていて、日光にあたるケースが多く、有機系のものの使用は難しく、視認性も要求されます。このため、金属錯体系が用いられています。

 筆者が湿度インジケーターシリカゲルの開発に携わった時に、ブリーザー中の湿度インジケーターシリカゲルの吸湿による変色を確認するために、ヘリコプターを飛ばし、その上空から双眼鏡で吸湿を確認するということを聞いたことがあります。

商品形態

バルク品

 シリカゲル単体の商品形態はバルク品と呼ばれ、湿度インジメーター単品と、湿度インジケーターシリカゲル単品、A形シリカゲルに数%~10%程度加えた混合品があります。混合品は、単品と区分するため、商品名にMIXを付けて表すことがよくあります。

Fig11.湿度インジケーターシリカゲル単品と混合品の一例

 湿度インジケーターシリカゲル単品は、混合品に比べして視認性が良い反面、混合品に比べて高価になります。

 一方、混合品はA形シリカゲルに比べて視認性が劣る反面安価というメリットがあります。

 このため、厳密な湿度管理が要求される箇所には単品がよく使用されています。

包装

 シリカゲルや湿度インジケーターシリカゲルの包装品には、ポリプロピレン(PP)包装タイプと、不織布包装タイプがあります。

PP包装タイプ

 PP包装タイプ(PPタイプ)は、透明ポリプロピレン製のフィルムを用いてシリカゲルを袋状に包装して、上下に細かな穴開け加工をしたタイプで、この穴から湿気を含んだ空気が入ってきます。

 Fig12にPP小袋タイプのシリカゲルの外観と構造を示します。

Fig12.PP小袋タイプのシリカゲルの外観と構造7)

 PPフィルムは透明なため、湿度インジケーターシリカゲルや混合品を封入した場合、一目で色変化を確認することができます。また、包装容量は1gから数十グラムまで細かいバリエーションがあります。

不織布包装タイプ

 不織布とは、「織らない布」で、繊維を化学処理や熱処理で絡ませてシート状にした多孔質素材です。通気性・保温性・ろ過性に優れ、裁断してもほつれにくく、密度や風合いを自在に調整できます。

 原料には天然繊維や合成繊維、パルプなどが使われ、用途はマスク、衣料、医療、建築など多岐にわたります。

 シリカゲルをこの不織布で袋状に包装したものが不織布包装タイプ(不織布タイプ)です。

Fig13.不織布タイプの外観8)

 不織布タイプは、PPタイプに比べて強度が強く、湿気を内部に通す透湿率が高いため、1kgの包装容量のものがあります。その反面、色が乳白色のため、PPタイプに比べて視認性が劣るというデメリットがあります。

再生と取扱いの注意点

 色が変化した湿度インジケーターシリカゲルは、加熱(100〜120°C程度、1〜2時間)によって再生できます。ただし、着色剤の劣化や揮発により、再生回数には限界があります。また、塩化コバルト系は有害性があるため、取り扱いにはSDS記載の安全対策(手袋・保護眼鏡など)を遵守する必要があります。

 このように原理的には再生が可能ですが、加熱による、湿度インジケーター剤の劣化、ベースシリカゲルの吸湿能力が落ち、湿度インジケーターの呈色範囲が変わる可能性があるため、個人的には再生はあまりおすすめできません。

環境規制と今後の動向

 先にお話ししましたように、欧州連合のREACH規制では、塩化コバルトが発がん性物質として認定されており、使用や輸出には制限が加えられています。日本でも、化学物質管理に関する法規(化管法・PRTR制度など)により、安全データシートや表示義務が求められます。これらを受け、近年では環境対応型の無コバルト系指示薬への切替が進められています。

 更に、化学物質の取り扱いが厳密化される昨今では、湿度インジケーターシリカゲルは、非晶質シリカの管理と、湿度インジケーター剤の管理が厳密に求められます。

 このため、湿度インジケーターシリカゲルを用いず、シリカゲルの暴露時間をさだめて、時間をオーバーしたものは廃棄する経時管理を行うケースも増えてきています。

まとめ

 湿度インジケーターシリカゲルは、湿度の「見える化」によってさまざまな産業で活躍している実用性の高い材料です。

 湿度インジケーターシリカゲルは、塩化コバルトなどの金属錯体系と、pH指示薬を用いた有機系に大別されます。

 金属錯体系は、有機系に比べて視認性に優れる、熱や紫外線に強い反面、安全性に劣ります。とくに、塩化コバルトには発ガン性を有することが確認され、欧州連合のREACH規制では使用が制限されています。
 一方、pH指示薬を使用したものは、安全性は高い反面、熱や紫外線に弱く、視認性も劣り、両者にはトレードオフの関係があります。

 湿度インジケーターシリカゲルは、シリカゲルの乾燥状態を確認するために、みなさんの身近な、お菓子や健康食品から電子材料まで幅広く使用されています。

 その中で、高圧変圧器のブリーザーには、絶縁油の吸湿によるショートを抑えるために、乾燥剤としてA形シリカゲルが使用されていて、この乾燥状態を使用するために湿度インジケーターシリカゲルは欠かせません。しかし、ブリーザーが置かれている場所は、太陽光が直接照射するため、耐候性の有する金属錯体系が使用されてて、塩化コバルトが使用されています。しかし、先にも述べたように塩化コバルトは発がん性があることから、耐光性が高く、かつ視認性が高く発がん性がない安全なシリカゲル湿度インジケーターが求められています。

 また最近は、化学物質の取り扱いが厳密化のリスクに伴い、湿度インジケーターシリカゲルを用いず、シリカゲルの暴露時間をさだめて、時間をオーバーしたものは廃棄する経時管理を行うケースも増えてきています。

 今後は、電気的センサーを組み合わせたシリカゲルによる吸湿状態の可視化、IoT技術と組み合わせることでインターネットを介して遠隔地から湿度をモニタリング管理するシステム等、シリカゲルとIOTによる湿度管理の組み合わせが進んでくるものと考えられます。

参考文献


1)
日本産業規格JIS Z 0701 包装用シリカゲル乾燥剤(2018)
2)らくらく理科教室 https://sciyoji.site/soko_cobart/
3) L. G. Gordeeva, I. S. Glaznev, E. V. Savchenko, V. V.Malakhov, Y. I. Aristov, J. Colloid Interface Sci. ,301(2006)pp. 685-691.
4)職場のあんぜんサイト『塩化コバルト』https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7646-79-9.html
5)ホクセイプロダクツ株式会社https://ja.nc-net.or.jp/company/102162/product/detail/206303/
6)相配電網協議会https://www.tdgc.jp/information/2023/05/18_0900.html の図を参考に筆者作成。
7)富士ゲル販売株式会社http://www.fujigh.co.jp/f-shop/p1.html
8)BB net https://bbnet.shop/products/1329?network=google_g&placement=&keyword=&device=&gad_source=1&gclid=CjwKCAjw6JS3BhBAEiwAO9waF-poPQp8hdC20Q8FCO3L2c5lyDC_cCBQxke0uFWoQeXxfJDoSRVZJBoCAGIQAvD_BwE

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