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シリカ中の金属不純物の測定法その1       ~原子吸光光度法を中心に~

シリカ

前回の記事では、合成シリカ中の金属不純物の抽出法(前処理)について解説しました。

今回は、その前処理をしたサンプルから、シリカの分析規格にもとづき金属不純物の特性に応じてどのように分析されるかを原子吸光光度法と比色定量法2回にわたって解説していきます。

シリカの金属不純物測定に関する分析規格と対象物

シリカ中の金属不純物の測定法と対象金属は、使用用途に応じて定められています。Table1にシリカの金属不純物測定に関する分析規格と対象物一覧を示します。

対象物は一般、医薬品、化粧品、医薬部外品、食品添加物に分類することができ、一般を除いた医薬品、化粧品、医薬部外品、食品添加物は直接人体に接触しますので、含有量が厳しく規定されているのが特徴です。また、分析方法は、原子吸光光度法によるものと比色定量によるものに大別されます。

Table1. シリカの金属不純物測定に関する分析規格と対象物一覧

一般

日本産業規格(JIS)では、シリカゲル試験方法に、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO) 、塩化コバルト(Ⅱ)(CoCl2)が指定されていて、塩化コバルトを除き原料由来や製造工程中における金属不純物量を確認するために用いられます。特に、これらの金属類は触媒やクロマトグラフフィー等のファインケミカル用として用いられるときに影響を及ぼす場合があるため、厳しく含有量が制御される場合があります。

また、塩化コバルトは過去シリカゲル湿度インジケーターに広く使用されていたためですが、現在は発がンの可能性があることから、一部を除いて代替品が使用されています。

余談ですが、筆者は塩化コバルトより安全性の高くかつ、視認性の高いリンポルフィリンを用いた、湿度インジケーターシリカゲルの開発を主担当として携わらせていただき、2度にわたり賞をいただきました。この詳細につきましては、別の機会に解説をさせていただこうと思います。

話が脱線してしまいましたので、元に戻します。

これら金属不純物の分析方法は原子吸光光度法での測定が指定されています。

この規格での検液の前処理方法は、ふっ化水素酸を用いられていてシリカ骨格内の元素も測定対象となります。この規格はシリカゲル対象の規格ですが、これら分析方法は他のシリカの金属不純物分析にも広く用いられています。更に、本規格には定められていませんが、原子吸光光度法により、鉛(Pb)やヒ素(As)も測定できるため、Table1に括弧を付けて示しています。

医薬品

医薬品の使用されるシリカは、日本薬局方(局方)と医薬品添加物規格に規定されています。前処理は塩酸による溶出で、接液部分から溶出したもののみが測定されることになり、シリカ骨格内に残存している元素は測定されません。対象金属は重金属、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化カルシウム(CaO)で、これらは比色定量法で分析されます。

医薬部外品

歯磨きや化粧品等に使用されているシリカが対象となります。医薬部外品原料規格に規定されていて、重金属、ヒ素(As)、フッ素が(F)対象となり、これらは比色定量法で分析されます。

医薬品と同様に前処理は塩酸による溶出で行うため、シリカ骨格内に残存している元素は測定されません。

食品

食品に使用されているシリカが対象となります。食品添加物公定書に規定されていて、鉛(Pb)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)は原子吸光光度法、ヒ素(As)は比色定量法で分析されます。また、医薬品と同様に前処理は塩酸による溶出で行うため、シリカ骨格内に残存している元素は測定されません。

一般的な分類法との違い

医薬品、医薬部外品、食品に用いられるシリカは、フュームドシリカ、シリカゲル、沈降性シリカ等の一般的な分類法とは異なり、粒子径、かさ密度、含水率等により分類されます。

このため、含水二酸化ケイ素には、ヒュームドシリカのもの、シリカゲルのもの、沈降性シリカによるものがあり、分類は同じでも構造や物性が異なるものが混在している場合があります。

原子吸光光度法

原子吸光分析法は、1955 年にオーストラリアの Dr. A. Walsh によって創始された。主に溶液試料中の無機元素の濃度を測定する方法であり、鉄鋼、非鉄金属、材料、めっき液、石油化学、環境、食品、生体、地球科学など幅広い分野で使用されています1)

原子吸光光度法とは、資料中の目的元素を熱などによって原子化した際に発生した原子蒸気に照射した特有の波長の光(共鳴線)が吸収される現象を利用し、吸光度を測定して濃度を求める方法です。

Photo1. 原子吸光光度計の一例2)

測定原理

原子の励起状態

ボーアの量子条件によると、原子核の周りの電子は決まった軌道を円運動し、電子はエネルギーを持っていて、この電子軌道をエネルギー準位といいます。

ここで原子にエネルギーを与えると、電子の円軌道が外側の円軌道に移動して、高いエネルギー準位になり、この現象を励起と呼びます。

励起される前のエネルギーの低い状態を基底状態と呼び、通常は、基底状態の原子は安定に存在しています。しかし、基底状態(Base state)にある原子に熱や光を与えると一番外側の軌道にある電子(高いエネルギーを持つ電子) が、さらに外側の軌道に移動します。この状態を遷移と呼ばれ、この時、原子のエネルギーは高まる。このような状態を励起状態(Excited state)といいます。励起された原子は励起状態を長く維持できず、基底状態に戻ろうとします。そして、励起状態から基底状態に戻る時にはエネルギー準位も変化します。この時のエネルギーの差は発光スペクトルとして放出されます。

Fig1.原子の基底状態と励起状態3)

フラウンホーファー線

太陽の光をプリズムに通してみると、虹色に光が分解されて見えます。

更に詳しくみると、連続的な放射のなかに暗い筋(暗線)が無数に存在していることがわかります。

この暗線は、太陽大気の主成分である水素や微量に含まれるカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄などの不純物が、内部から来る光を特定の波長だけで吸収することで現れ、代表的な暗線は、その発見者の名前をとってフラウンホーファー線と呼ばれています。

フラウンホーファーは、強く見える暗線に、波長の長い方、すなわち、赤い方から順番に、A、B、C、・・・というようにアルファベットで名前をつけていった。例えば、D線はナトリウムが、H線・K線はカルシウムが作る暗線としてよく知られていて、そのなかには太陽起源のものではなく、地球大気の吸収でできる暗線もあります4)

Fig4にフラウンホーファー線とナトリウムの輝線スペクトルを示します。フラウンホーファー線のD線とナトリウムの輝線の輝線スペクトルは一致をして、太陽光からのナトリウムの波長のみ吸収されていることがわかります。

Fig2. フラウンホーファー線とナトリウムの輝線スペクトル5)

輝線スペクトルとは、炎光や放電などにより気体原子が発する光の線で、ほとんど単色光のきわめて幅の狭い多くの線です。わかりやすいのが炎色反応で、ある種の金属塩(主にアルカリ金属や アルカリ土類金属)を炎の中に入れて強く熱すると、気化して生じた金属原子中の電子が高いエネルギー状態に励起されます。この励起された振動数νの波長のエネルギーが発光、輝線スペクトルとして現れます。

Fig3. 炎色反応の例6)

基本となる法則

Lambertの法則

18世紀にブーゲ(Bouguer)とランベルト(Lambert)によってまとめられた法則です。

ランバートの法則(Lambert’s law)とは、試料溶液に光を透過させた際、透過光のエネルギーは通る距離に対して指数関数的に減少することで以下の式で表すことができます。

Fig4.Lambertの法則7)

Beerの法則

Beerの法則(Beer’s law)とは、試料溶液に光を透過させた際、透過光のエネルギーは試料濃度に依存して減少することを示した法則です。

Fig5.Beerの法則7)

Lambert-Beerの法則

LambertとBeerの法則を組み合わせたものをランバートベールの法則(Lambert-Beer’s law)といいます。ランバートベールの法則試料中を光が伝搬するときの、吸収による光強度の減少量を表現する法則です。

Fig6.Lambert-Beerの法則7)

溶液中を伝搬する入射光Iは、溶液中の分子の吸収により、伝搬距離と溶液の濃度Cに比例した割合で減少してIとなります。

このとき、入射光(I)に対する透過光(I)の割合透過率Tといい、T=I/Iで表すことができます。このとき、吸光度AはA=-logTで表すことができ、更に吸光度は吸光係数(a)、光路長(L)、試料濃度(C)の積となるため、次のような式が成立します。

また、吸光係数(a)がサンプルの重量当たりで表されますが、重さの変わりにモル(mol)単位で表したものをモル吸光係数(ε)といい、吸光度は次のように表すことができます。

モル吸光係数(ε)は、物質ごとに決まっているため、モル吸光係数から物質を同定することもできます。

装置の構成

Fig4に原子吸光光度計の構成を示します。

原子吸光光度計は、ホローカソードランプを用いた光源、高温バーナー等による試料原子化部、原子化部から得られたスペクトルを補正する補正光学系、得られたをスペクトルを変換増幅する光学系制御(光学系)とそれを信号として検出する検出部、データ化して処理を行う処理部で構成されています。

Fig4.原子吸光光度計の構成8)

Fig5.原子吸光光度計のイメージ9)

試料溶液は、ネフライザーという噴霧装置により霧化され燃焼ガスと助燃ガスにより高温に加温されたバーナーに入ります。試料中の金属元素は原子化(励起)され、ホローカソードランプからの輝線スペクトルに吸収された光が回折格子により分光されます。分光された光はミラーで反射させることにより増幅され、その信号を検出器(光電子増倍管)により電気信号に変換されてデータ処理システムに送られます。

光源部

分析光源には中空陰極ランプ(ホローカソードランプ)や水銀分析用には低圧水銀ランプなどが用いられます。また、バックグラウンド補正用光源には重水素ランプ、タングステンランプなどが用いられます。

Fig6.ホローカソードランプの構造10)

ホローカソードランプは特定の波長の輝線を発する光源です。分析を行う場合に測定元素の数だけランプを準備する必要がありますが、最近では、一つのランプから数元素の波長を発することができる複合ランプもあります。ホローカソードランプの内部はNe(ネオン)または Ar(アルゴン)などの不活性ガスが封入されており、電流を流すことによりこれらの不活性ガスがイオン化 (Ne+、Ar+) され、カソード(中空陰極)をスパッタする。カソードは、測定に使用する金属または合金で作られておりスパッタされることにより発光し元素固有の波長の光を放出する。

スパッタとは、ガスイオンを衝突させてカソード表面から金属原子を飛び出させることをいいます。

原子化部

原子価部は、フレーム法とフレームを用いない方法のフレームレス法に大別されます。

フレーム法

特定の燃料ガスと助燃ガスを組み合わせた化学フレーム中に試料を噴霧し、生じた原子蒸気中に光源からの光を入射します。燃料ガスと助燃ガスの組み合わせによってフレーム温度が異なるため、測定元素によって燃料ガス、助燃ガスの組み合わせを決定します。

Fig7.フレームと燃焼状態11)

Table2に燃料ガスと助燃ガスの組み合わせと測定対象元素の一覧を示します。燃料ガスに水素、助燃ガスに空気用いたものは、カドミウム(Cd)やカドミウム(Pb)など重金属の測定に用いられます。
また、燃焼ガスにアセチレン、助燃ガスに空気を用いたものは、一般元素の分析、更に、助燃ガスに一酸化二窒素(N2O)を用いたものはフレーム温度が3000℃と高くなるため、励起しにくいアルミニウム(Al)やチタン(Ti)などの難解離性の元素に用いられます。更に、燃焼ガスに水素、助燃ガスにアルゴンを用いたものは、ヒ素(As)やセレン(Se)などの水素化物の測定に用いられ、燃焼ガスにプロパン、助燃ガスに空気を用いたものは、ナトリウム(Na)やカルシウム(Ca)など励起しやすく吸収が大きい元疎に用いられます。

Table2. 燃料ガスと助燃ガスの組み合わせと測定対象元素

電気加熱法(フレームレス法)

黒鉛炉や耐熱性の金属炉を用いて電気的に加熱して原子化する方法です。試料は数十µlと極少量で済みますが、フレーム法に比べて繰り返し精度に問題が生ずる場合もあります。

Fig8.電気加熱式(黒鉛炉)の概略12)

還元気化法(水素化物)法

ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)などのⅣB族、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、Bi(ビスマス)などの  ⅤB族、セレン(Se)やテルル(Te)などのⅥB族の元素を亜鉛粉末や四水素化ホウ酸ナトリウム(NaBH4)などの還元剤で水素化物として、フレーム中に導入して原子化する方法です。

筆者も過去、この方法でシリカ中のアンチモンの測定を行ったことがあります。

Fig9.水素化物発生法の概略13)

還元気化法(冷蒸気法)

測定対象物質は水銀で、試料を過マンガン酸カリウムで前処理した後、塩化スズ(Ⅱ)で水銀を還元し、発生した水銀蒸気を吸収内セルに導いて測定をする方法です。

筆者も過去、この方法でシリカ中の水銀の測定を行ったことがあります。

Fig9.還元気化法の概略13)

バックグラウンド補正

通常試料溶液は、多くの種類の金属塩を含んでいるため、それらに由来するバックグラウンド吸収は測定誤差を与える要因となります。したがって、これらを補正するために次のような方法があります。

連続スペクトル光源補正方式

重水素放電ランプやタングステンランプなどの連続スペクトルを用いて紫外部の補正を行う方式です。

ゼーマン分裂補正方式

ホローカソードランプからの輝線を強磁場に通すと、輝線は鉛直成分と垂直成分の2成分に分離します。その2つ輝線の一方をバックグラウンド補正に用いるのが、ゼーマン分裂補正方式です。

非共鳴近接線方式

この方法は、分析線と近接する輝線を放射するホローカソードランプを補正用光源とするのが特徴です。

自己反転方式

ホローカソードランプの管電流を増大させることによって生ずる自己吸収によるピーク分裂を用いて補正するのが特徴です。

干渉

物理的または化学的理由によって測定値に誤差を与えることを干渉といい、原理から物理干渉と化学干渉に大別されます。

物理干渉

物理干渉には次のような要因があります。

・分析線と近接線の分離が悪い場合
・目的元素以外の光散乱または吸収がある場合
・試料溶液の粘性変化により吸入量が変化する場合

この内、光の散乱や吸収が散乱の原因となる場合は分光干渉とも呼ばれ、物理干渉と区分される場合があります。また、試料はネフライザーという霧化装置によりバーナーに導入されるため、吸入量の変化ンいより干渉が生ずることがあります。

化学干渉

化学干渉には次のような要因があります。

・炎の中で原子化の妨害や蒸発気化により原子化過程に影響を与える場合
・共存する酸根により原子化する際に難解離性の化合物が形成されてしまう場合

酸根(さんこん)とは、酸の分子から水素原子を除いた残りの原子団のことです。酸基(さんき)とも呼ばれます14)

一般に化学干渉を抑制するためには、抑制剤として検液に酸化ランタンの水溶液等を添加して干渉を抑える場合があります。

シリカ中の不純物金属を分析するためのポイント

フッ化水素酸の残存

前回の記事では前処理としてフッ化水素酸を用いる方法をご紹介しましたが、このフッ化水素酸が残存したまま検液を調製した場合、検液中の金属とフッ素が反応してフッ化物を形成します。

例としてカルシウム(Ca)における反応式を以下に示します。

検液中でCaはカルシウムイオン(Ca2+)として存在しています。

ここにフッ化水素が来るとフッ化水素は、水中で電離してH+とFとなっています。

HF→H++F

カルシウムイオンはF-を引き付けやすくフッ化カルシウムCaF2が形成されます。

Ca2++2FCaF2

このCaF2は難解離性の沈殿物で色は白色です。一旦CaF2が形成されると分解されないため沈殿が形成するために使われたCaは測定できないことになります。更に、沈殿物のためチューブやネフライザーが詰まる場合があります。また、沈殿物はその他の元素でも形成されるおそれがあります。

このため、試料調製の際にはしっかり蒸発乾固させてフッ酸を残さないのがポイントです。

ちなみに、白色沈殿が生じた場合にはどうすることもできませんので、再度はじめから調製する必要がります。

余談ですが、カルシウムはフッ素と非常に結び付きやすいため、フッ酸による薬傷にはCaが含まれているグルコン酸Caの軟膏が用いられます15)

ガスの選択

シリカの金属不純物としてNa, Ca, Mg, Fe, Alが原子吸光を用いて測定されます。シリカ中の金属元素を測定する場合、Alはアセチレン-一酸化二窒素で測定を行い、その他の元素は、アエチレン-空気の一般元素の分析法で行います。しかし、Naが多く含まれている場合は、プロパンー空気を用いたり、発光度を定量する炎光分析で行う場合があります。炎光分析を行う場合、ホローカソードランプは不要となります。

干渉抑制

一般に干渉抑制剤として酸化ランタン(La2O3)の水溶液を用いますが、Alについてはそれ自体をマスキングしてしまうので用いることができません。

このため、検液をAl測定用、それ以外の元素(Na, Ca, Mg, Fe)と検液を分ける若しくは別に調製する必要があります。

また、Caを測定する場合には、測定波長と波長補正用の重水素ランプの波長が干渉して正しい測定ができない場合があるので、この場合重水素ランプを点灯させないで測定を行う必要があります。

誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法

ICP 発光分光分析装置は、6000~10000K のアルゴンプラズマを発光光源として使用し、霧状にした溶液サンプルをプラズマに導入することで元素固有のスペクトルを発光させ、これらのスペクトルから元素の存在を明らかにし、光の発光強度から元素の濃度を求めることができます。

ICP発光分析は、原子吸光光度計より分析精度が高く、かつ多元素を一度に測定できるため、金属元素分析の主流になりつつあります。このため、原子吸光に代わり用いてもよい場合が多くなってきています。

Photo2.ICP 発光分光分析装置の一例16)

測定原理

噴霧した試料を高温のプラズマ中で加熱励起し、励起された原子が低いエネルギー単位に遷移するときに放射する原子スペクトル線の強度から定量分析を行う方法で、スペクトル線の波長からは定性分析を行うことができます。

励起状態とプラズマ

ICP発光分析法は、原子吸光光度法と同じく原子の励起する性質を利用していますが、プラズマを励起源として利用しているのが最大の特徴となります。

プラズマとは

温度が上昇に伴い物質は、固体から液体に、更に液体から気体にと状態が変化します。

気体の温度が上昇すると気体の分子は解離して原子になり、さらに温度が上昇すると原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れて正イオンと電子に分かれます。この現象を電離と呼び、電離によって生じた荷電粒子を含む気体をプラズマとよびます。

プラズマと気体との大きな違いは、荷電粒子の間にクーロン力が働くことです。

気体では2つの粒子が極めて接近したときだけ粒子間に力が働くのに対して,クーロン力ははるかに遠方まで力をおよぼします。そのため、1つの粒子の運動は多くの粒子に影響をおよぼすため中性気体にはみられない様々な現象が現れます。

Fig8.プラズマのイメージ17)

ICP発光分析は、原子をプラズマまで励起させて分析するのが最大の特徴です。

装置の構成

ICP(Inductive Coupled Plasma)発光分析装置は、ガス供給部、プラズマ励起源、高周波電源、試料導入部、分光部、検出器、装置演算制御部で構成されています。

試料導入部には、試料を均一に送液するためにベリスタックポンプ、原子吸光光度法と同様に試料を均一に霧化させるネフライザー、チャンバーが備わっています。

Fig9.ICP発光分析装置の構成18)

プラズマ内で発光した光は、光学レンズで集光した後、入射スリット (入口側スリット) を通り分光器内部に取り込まれる。スリットを通過した光は一定の幅に広がり、対面に位置する凹面ミラーによって回折格子へと導かれる。回折格子表面は1 mm の間に数千本もの細かい溝が精度よく刻まれており、それにより光が分光(波長毎に分類)される。分光された光は、次の凹面鏡で集光され、出射スリットを通り検出器で受光される。波長走査は、回折格子をステッピングモーターまたはサインバー方式により制御され、特定の波長の光のみを検出器へと導く機構となっています。

Fig10.シーケンシャル型、エシェル型、パッシェンルンゲ型のイメージ19)

分光方法は、シーケンシャルタイプとマルチタイプに大別されます。

シーケンシャルタイプは、逐次的に回折格子を駆動 (回転) することにより、分光された特定のスペクトルのみを検出器へ導く方式で、一般的に分解能が高く、感度が良いが、測定スピードはマルチタイプと比較するとやや劣ります。

一方、マルチタイプは、固定されたプリズムや回折格子により分光された測定対象範囲の波長域のスペクトルを同時に検出することができるので、測定スピードが速く、繰り返し測定の再現性が良い。

マルチタイプは、分光器の光学配置でエシェル型とパッシェンルンゲ型に分類される。

エシェル型は、回折格子とプリズムを使って光を分散する方式で、回折格子によって光を縦方向に分散させた後、プリズムにより異なった次数の光を水平方向に分散させ面検出器で二次元像として測定する。パッシェンルンゲ型は、スリット、回折格子、検出器がローランド円上に固定されており、凹面回折格子で回折された光は波長順に円周上に焦点を結ぶ構造となる。そのため測定したい波長により、検出器をたくさん配置する必要があり装置がやや大きくなるが、一次光を中心とした測定になるため分解能は一定となります。

一般的にシーケンシャルタイプには光電子増倍管が、マルチタイプには半導体検出器が使用されます。

試料導入部

ベリスタックポンプで送られた試料はネフライザーを用いチャンバー内で噴霧されます。このとき試料はミスト状になってキャリアーガスのアルゴチャンバー部のプラズマに移送されます。

ネブライザー、チャンバーには、ガラス製と樹脂製とがあり、一般的にはガラス製が多く用いられるが、フッ化水素酸を含むサンプル溶液などでは、ガラスを浸食してしまうため樹脂製が用いられます。

プラズマ励起源(発光部)

上端の外部に誘導コイルが巻かれた石英製三重管のプラズマトーチが励起源に用いられます。

このコイルに300MHz以下の高周波電流を流すことで誘導結合型プラズマが発生し、周波数が30MHz以上であれば、プラズマがドーナツ型となって資料を有効に加熱することができます。

この励起源の温度は9000Kに達する、プラズマの形状によって試料の滞留時間を調整できる特徴があります。

Fig11.石英製三重管のプラズマトーチと発光の様子20)

石英トーチ外周の誘導コイルに高周波電力を印可し、発生した電磁場によって電子とアルゴン原子の衝突が繰り返され、アルゴン原子が継続してイオン化されてプラズマが形成、維持されます。

このとき三重管構造をもつ ICP トーチには、プラズマガス(冷却ガス)、補助ガス、インジェクターガスの3種類のガスが導入されます。

プラズマガス(冷却ガス)

三重管の石英トーチの最も外側に流されるガスで、プラズマを維持するために必要なアルコンガスを供給するとともに、トーチ外周部に多量のガスを流すことで石英管を冷却する目的があり、冷却ガス(クーラントガス) とも呼ばれます。また、大量のアルゴンガスを導入することでプラズマ中心部を大気から遮断し、プラズマ内への空気の混入を防ぐ働きがあります。

補助ガス

三重管の石英トーチの中間層に流されるガスで、トーチからより離れた位置にプラズマを維持して、プラズマがトーチに接触して損傷させるのを防ぐ役目を果たしています。

インジェクターガス

三重管の石英トーチの中心の細管、インジェクターに流されるガスで、ネブライザーにより噴霧されたエアロゾルをプラズマへ搬送させるためのガスである。

インジェクターガスを細かく分類すると、ネブライザーに直接導入されるガスをネブライザーガスまたはキャリアガスといい、スプレーチャンバーに導入されるガスをメイクアップガスといいます。

キャリアガスの流量 (圧力) は、試料エアロゾルの導入量に直接影響する要素で、プラズマの安定性に影響するため、最適流量に設定する必要があります。

分光部、検出器

波長選択には、原子吸光光度法と同様に回折格子が用いられます。回折格子を固定し、分析線の回折位置にスリットと光電子増倍管を設けた他元素同時検出器と回折格子を回転し、一つのスリットに逐次分析線を通過させて、フォトマルチプライアという検出器で逐次検出を行います。

干渉

分光干渉には共存元素の近接線による干渉と試料溶液成分のバックグラウンドによるものがあります。この場合、いずれも既知濃度の標準液を調製して干渉の定量的な程度を求めて補正を行うのが一般的です。

原子吸光光度法との比較

ICP発光分析法による金属分析には次のような特徴があります

  • プラズマの安定性が良いため、精度、感度ともに原子吸光光度法と同等若しくはそれ以上
  • 同時分析が可能(原子吸光のように測定元素ごとにホローカソードランプを交換が不要)
  • スペクトル線の広がりが少なくかつ自己吸収がないためダイナミックレンジが4~5桁あり精度が高い
  • 高温のICPで励起されるので化学干渉が少ない
  • 難解離性の酸化物を生ずるベリリウム(Be), ホウ素(B), ビスマス(Bi)などに対して高感度である
  • ナトリウム(Na)とカリウム(K)についてはイオン化干渉が大きく真値が得られにくい
  • Beerの法則は成立しない

ダイナミックレンジとは、は測定できる信号の最小値と最大値の幅のことで、最小値と最大値の幅が大きいことをダイナミックレンジが広いと言います。つまり、ダイナミックレンジが広いほうが幅広い範囲でシグナルを検出することができるということになります21)

Beerの法則とは、試料溶液に光を透過させた際、透過光のエネルギーは試料濃度に依存して減少することを示した法則です。一般にBeerの法則は高濃度の条件下では成立しません。

ICP発光分析ではプラズマ励起された元素が高濃度存在するため、Beerの法則は成立しません。

シリカ中の不純物金属を分析するためのポイント

フッ化水素酸の除去

原子吸光光度法のところでも述べたように、フッ化水素酸を完全に除去する必要があります。

更に、ネブライザー、チャンバーには、ガラス製と樹脂製とがあり、一般的にはガラス製はフッ化水素酸を含む溶液は使用できないため、完全に除去する必要がありますが、樹脂製を用いることにより測定ができます。

メモリー効果

高濃度の検液を測定した場合、ネフライザーやチャンバー、トーチにこれらが付着して残存してしまい、他の元素にそれ以前に導入した分析イオンが残留します。

ケイ酸ソーダを由来としていたシリカには高濃度のナトリウムが含まれていることが多く、これらを分析する場合は、直接現役を用いず、適正な濃度に希釈したり、原子吸光光度法等で分析したりしてメモリー効果を防止する必要があります。

メモリー効果が発生した場合は、希硝酸溶液で繰り返し洗浄を行い原因元素を除去する必要があります。

多元素同時分析

ICP発光分析は一度に多くの元素分析ができることが特長の一つです。詳しいことは、検量線法のところで申し上げますが、他元素分析ができるように様々な種類の標準液が市販されていて、自分で調整することも可能です。

標準液には、対象元素やその塩と水や酸溶解液で構成されているため、自分で調製するためには酸溶解液に含まれている元素に測定対象元素が含まれているか確認する必要があります。

今回の対象元素ではありませんが、チタン(Ti)標準液にはチタン塩として硫酸チタン(Ti(SO4)2)酸溶解液に硫酸(H2SO4)が用いられているため、硫黄(S)を同時測定することができません。

同様に、シリカ(Si)標準液はシリカ塩としてケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、溶解液として炭酸ナトリウム(Na2CO3)が用いられているためナトリウム(Na)を同時測定ができません。また、ゲルマニウム(Ge)については、酸溶解液に炭酸カリウム(K2CO3)が用いられているためナトリウム(Na)を同時測定ができません。したがってこれらの元素を測定するためには、単独で測定をされた方が無難です。

標準液の選定は以下のHPでご確認ください。
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/multielement_standard/index.html

検量線法

原子吸光光度法、ICP発光分析法ともに、濃度の算出は検量線法により行われます。

検量線法とは、元素濃度と検出された強度が一定の関係を持つことを利用して、強度から元素濃度を直接求める方法です。

測定は、検量線の範囲内の吸光度になるように原液を希釈して行います。具体的には、標準液を10、50、100、500、1000、・・・倍と希釈して希釈液の吸光度を測定し、検量線の測定範囲内に入った希釈倍率を選定して、原液の濃度を決定します。

検量線法は、絶対検量線法(検量線法)、標準添加法、内標準法に大別されます。

絶対検量線法(検量線法)

標準試料で得られた感度と未知試料の測定感度との単純な相対比較を行う定量手法です。 メリットは、試料調製が容易であることが挙げられます。 デメリットは、物理干渉やマトリックス効果の影響が定量結果に反映されることが挙げられます。

マトリックスとは、試料から同時に抽出され、精製行程でも除去し切れなかった目的外の試料成分のことを差し、「きょう雑物質」と言うこともあります。

標準添加法

未知試料に既知濃度の標準液を濃度変えながら添加して測定する定量手法で、試料マトリックス濃度が高い場合にも適応できる反面、試料調製が煩雑であることや添加濃度の検討が必要となります。

内標準法

測定試料すべてに内標準元素を一定量添加しその強度比で補正する定量手法です。 メリットは、物理干渉やマトリックス効果の影響を補正することができることが挙げられます。 デメリットは、適切な内標準元素を選定しなければならないことと、適切な添加量を十分に考慮しなければ正確な測定ができないことがあげられます。

検量線の特徴

Fig1に   原子吸光光度法における検量線を示します。

検量線を作成する際に、原子原子吸光光度法ではY軸は吸光度、X軸は濃度でプロットしますが、ICP発光分析ではY軸を発光強度(強度)としてプロットします。

絶対検量線法(検量線法)

標準液の濃度を試料濃度の範囲に入るように振り分け調製した溶液と吸光度により作成した検量線を作成します。次に試料の吸光度から平行線を引き検量線の交点から垂線を引き、標準物質濃度(C)の交点から試料の濃度を求めることができます。

Table1では、濃度0、0.1、0.2、0.3、0.4[mg/L]から作成した検量線から、未知試料の吸光度が0.3となり、検量線の交点より試料濃度を求めることができ、未知試料の濃度は0.15[mg/L]なります。

標準添加法

測定対象元素の濃度未知の試料に既知濃度の標準液を、濃度を変えながら添加して試料の濃度を求める方法です。例えば、濃度未知のNa試料を測定する場合、濃度未知の試料にNaの標準溶液をそれぞれ無添加(0[ml/g])、0.1[mg/L]、0.2[mg/L]、0.3[mg/L]を作成し、検量線をプロットしたものになります。このとき、未知試料中のNa濃度をXと置くと、実際の濃度はX+0、X+0.1、X+0.2、X+0.3となり、この検量線をX軸の交点に外挿させると、交点は大きさだけ見た場合0+Xとなり、Xが-0.3であることから試料中のNa濃度は0.3[ml/g]となります。

内標準法

検量線と同じく、標準液の濃度を調製した後に、それら標準液と試料溶液に一定量の既知濃度の標準液を加えることが特徴です。

Fig1では、検量線法と同様に濃度0、0.1、0.2、0.3、0.4[mg/L]から作成した検量線をしますが、

内標準法では一定量の既知濃度の標準液を加えているため、濃度0でも添加量分の吸光が検出されます。また、試料溶液にも同じ量の標準液が添加されていることから、検量線と同様の手法で、未知試料の濃度を求めることができます。更に、内標準法は濃度比が常に一定のため、濃度を誤った場合にも補正することができるため、検量線法での測定を検証するために用いられることがあります。

検量線法については以下のリンク先の動画で非常に分かりやすく説明されていますので、是非とも参照ください。

超希薄溶液測定用標準液の調製

ICP発光分析より精度が高い分析法として、ICP-MSがあります。ICP-MSは、イオンのm/z(質量電荷数比)におけるイオン個数を測定するため、ppb(ppmの100万分の一)、ppt(ppbの百万分の一)レベルの濃度の分析が可能です。しかし、希薄な溶液は、温度やpH等の変化により変化しやすいため、標準液は、原則としてその場で調製して測定をします。更に、これらの元素を測定するためには、使用する水や標準液試薬は超高純度のものや、超清浄な容器を用いる必要があります。また、空調にも注意を払う必要があり、測定者からのコンタミを防止するため特別な作業衣、作業靴が必要となります。更に、人の呼気や動きでも測定に影響するため、作業場の人数制限も設けられます。このように、ppbやpptレベルの分析を正確に行うためには、試薬、測定容器、測定環境等の厳密な制御が必要なため、その分コストが非常にかかります。

まとめ

今回は、シリカの金属不純物測定に関する分析規格と対象物に対する原子吸光光度法とICP発光分析について解説をしてきました。

原子吸光光度法は長い間シリカ中不純物の金属分析に用いられてきましたが、最近ではより分析精度が高く、多元素の同時分析が可能なICP発光分析にシフトしつつあります。しかしながら、ICP発光分析も万能ではなく、ナトリウム(Na)とカリウム(K)についてはイオン化干渉が大きく真値が得られにくいものとなります。ケイ酸ソーダ原料由来のシリカは比較的ナトリウム含有量が多いため、このようなシリカを測定する場合は、原子吸光装置を用いた吸光光度法や炎光法による測定が望ましく、元素により使い分けるのがよいかと思います。

更に最近は、ICP-MSのようにppbやpptレベルの分析装置も出てきていますが、シリカの金属不純物はppbレベルのものが多く、これら金属を測定する場合には測定濃度を考慮する必要があります。このため希釈により、かえって測定誤差が大きくなってしまう場合があります。更に、試薬、測定容器、測定環境等の厳密な制御が必要なため、その分コストが非常にかかるため、シリカの不純物金属分析には原子吸光光度法とICP発光分析を組み合わせるのが現時点ではベストと考えます。

参考文献

1)アジレントテクノロジー(株)原子吸光分光光度計の基礎 https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005727
2)島津製作所HP https://www.an.shimadzu.co.jp/products/elemental-analysis/atomic-absorption-spectroscopy/index.html
3)福﨑技術士事務所HP https://www.fukuzaki-gijutsushi.com/2021/08/27/%E9%87%91%E5%B1%9E%E6%9D%90%E6%96%99%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E8%AC%9B%E5%BA%A7-177/ 参考に筆者作成
4)分光宇宙アルバム https://prc.nao.ac.jp/extra/uos/ja/no05/
5)光と色とhttps://optica.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-a5da1b.html
6)キャタラー化学Q&A https://www.cataler.co.jp/train/qa/living/02.php
7)Study Z HP https://study-z.net/100091161#h22 をもとに筆者作成
8)環境学園専門学校 編著 新版よくわかる環境計量士試験[濃度関係] 弘文社 p.153をもとに筆者作成
9)アジレントテクノロジー(株)原子吸光分光光度計の基礎 https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1007459
10)アジレントテクノロジー(株)https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005727
11)島津製作所原子吸光光度計AA-7800シリーズカタログより抜粋
12)分析機器解説 https://www.bkb.co.jp/topics/photometer-test-flow/
13)(株)日立ハイテク https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/knowledge/analytical-systems/aas/aas-basics/course6.html
14)コトバンク https://kotobank.jp/word/%E9%85%B8%E6%A0%B9-2044053
15)小松ら フッ化水素酸による化学熱傷 Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal VOL.10 NO.1 MARCH 2005
16)アジレントテクノロジー(株) https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005979
17)京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻核エネルギー物理工学研究グループ(プラズマ)https://p-grp.nucleng.kyoto-u.ac.jp/plasma/
18)アジレントテクノロジー(株)HP https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1001752 をもとに筆者作成
19)アジレントテクノロジー(株)https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1007641
20)アジレントテクノロジー(株)https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=35074
21)ネットでカガク https://netdekagaku.com/signalandnoiseratio/
22)甲南大学理工部機能分子科化学科 – 環境計測のための機器分析法http://kccn.konan-u.ac.jp/chemistry/ia/contents_04/09.htmlを参考に筆者作成

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