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合成シリカとアルコキシシラン

シリカ

アルコキシシランとは?

アルコキシシラン(alkoxysilane)は、ケイ素(Si)にOR基(alkoxy group)が結合した化合物の総称です。また、OR基は別名アルコキシドと呼ばれ、アルコール化合物という意味です。アルコキシドは他の有機金属に比べて発火しにくい、揮発性の物質が多い、複合金属酸化物を作りやすいなどの特徴を有しています。

基本構造

Fig1にアルコキシシランの基本構造を示します。

Rはアルキル基といい、アルコキシシランの1種であるテトラメトキシシラン(TMOS)は、アルキル基がメチル基(CH3)、テトラエトキシシラン(TEOS)は、エチル基(C2H5)、テトラプロポキシシランはプロピル基(C3H7)、テトラブトキシシランはブチル基(C4H9)となります。

このうちブチル基は、2種類の構造異性体が存在するため、直鎖のものを(n-ブチル基)、側鎖のものを(tert(t)-ブチル基)とそれぞれnとtの接頭辞を付けて区分します。ちなみにtertはターシャリー(tertiary)の略です。

Fig1. アルコキシシランの基本構造

Fig2. n-ブチル基とtert (t)ブチル基

工業的にアルコキシシランは、触媒下で四塩化ケイ素(SiCl4)にアルコール(ROH)を反応させて作られ、反応式は以下の通りです。

このアルコールがメタノールの場合にはTMOS、エタノールの場合はTEOSと原料アルコールによりORが制御できます。更にブチルアルコール(ブチルアルコール)の場合、直鎖(n-ブタノール)、側鎖(t-ブタノール)となり構造も制御できます。

例えば、TEOSの場合は、原料アルコールとしてエタノールが用いられ、四塩化ケイ素と反応させることで、テトラエトキシシラン(TEOS)が得られます。しかし、すべての反応で塩酸が生成し、塩酸は腐食性が高く、金属を容易に腐食するため実際は耐酸設備で行われています。

Table1. 主なアルコキシシランとアルキル基およびベースとなるアルコール

テトラエトキシシラン(TEOS)

テトラエトキシシランTEOSは、別名、オルトケイ酸テトラエチル、正ケイ酸四エチル、ケイ酸エチルとも呼ばれます。

さきほど示しました反応は、基本は1846年にエーベルメンによって確立された反応で、日本が江戸時代の時には既に確立された反応です。このため、TEOSは古くから知られたアルコキシドとなります。

アルコキシシランは、シランカップリング剤としての性質も持っています。

シランカップリング剤とは、分子内に有機材料および無機材料と結合する官能基を併せ持ち、有機材料と無機材料を結ぶ働きをすることから、複合材料の機械的強度の向上、接着性の改良、樹脂改質、表面改質などに使用できます1)

性状

TEOSは、沸点が約169℃、蒸発熱 約220J/gで室温では蒸発しにくい液体です。無色透明な液体です。水には基本的不溶で、徐々に加水分解していきます2)

しかし、塩酸などの酸を加えると直ちに加水分解して白く濁り、エタノールと二酸化珪素SiO2になります。

Photo1.TEOSの外観3)

水には溶けにくいですが、有機溶剤一般にはよく溶けます。このため、一般の樹脂類に対しても親和性を示し、膨潤させたり溶出させたりするので、接液材料に樹脂類を用いることは避けるか、事前評価が必要となります。2)

危険性

ヒトに対する毒性

吸入毒性

TEOSは呼吸により体内に吸収されるおそれがあります。吸入の毒性評価として、吸入致死濃度LC50(ラット)があり、2500ppmとなり、1時間当たりのLC50(ラット)2000ppm以下のものは劇物となるため、劇物よりは致死量は低いですが注意が必要です。このため、作業場許容濃度TLV-TWA 10ppm(ACGIH 1995-96)と定められていて、85ppmでアルコール様の特異臭が感しられ、1,000ppm程度より刺激が強くなるといわれています。

血液系の毒性

脂溶性であり水に溶けにくいため血液系への特徴的な毒性が指摘されています。

体内での反応

酸があると反応して、加水分解してシリカとエタノールを生成します。

先にも述べましたように、TEOSは、沸点が約169℃、蒸発熱 約220J/gで室温では蒸発しにくい液体のため、加熱したほうがより危険性が高くなるため注意が必要です。

火災危険性

TEOSの火災に関する物性値等は下記の通りです。

引火点   56.3℃
発火点   248℃
燃焼範囲 0.7~5.75%
燃焼熱   5,526kJ/mol
炎色      なし
煙色      白色

皿に入れたTEOSをライターで火を点けることはできませんが、紙に染み込ませれば燃えます。大量でなければ、フタをかぶせるなどの窒息をさせればすぐに消え、再着火することはほとんどありません。

水に浮き、加水分解で可燃性のエタノールを発生するので、水消火は好ましくありません。火炎の熱で蒸気圧が上昇して、容器内圧力が高くなるため、容器破損から漏洩することを防止する必要があります。漏れた時は、少量ならば紙、砂、バーミキュライトなどの吸収剤で除去し、少量ずつ水に沈めて置くのが良いでしょう。

燃焼範囲の下限0.7%は、引火点の45℃に近い47℃の蒸気圧に相当するので、 『容器は高温にならない所に保管してください』と注意喚起されてます。

また、TEOSは電気抵抗率が大きく静電気を帯びやすいので、容器や配管の十分な接地や、接続前の放電が必要です。特に高周波装置の近くでは、漏洩電流や配管がアンテナとして作用する誘導電流によって微少火花が発生し得るので、注意してください4)

四塩化ケイ素の製造方法

先ほど述べたようにTEOSは四塩化ケイ素とアルコールを触媒下で反応して製造されます。

Fig2に示すように、四塩化ケイ素は、ケイ石をはじめシリカ純度が高い鉱物に炭素を加えて、高温で還元焼成して金属ケイ素(金属シリコン)にした後、塩化水素で反応させてトリクロロシランを作り、これを精製することにより四塩化ケイ素が得られます。

Fig2.四塩化ケイ素の工業的製法

一般に、還元焼成はアーク法により行われます。ケイ石が入った石英るつぼの中に、炭素で電極をセットして電流を流すとアーク放電により、1900℃に加熱されてケイ石は加熱溶解されます。このとき炭素電極により還元も同時に行われるため金属シリコン(Si)となり、副産物として二酸化炭素が生成して、以下のような反応式で表すことができます。

SiO2+C→Si+CO2

Fig3.アーク法による金属シリコンの製法5)

生成した金属シリコンは溶融して液体状態のため、別の石英容器で受けます。

更に、トリクロロシランは、シリコンウェーハの原料として用いられ、主にCVD法で製造されます。

CVD法とは、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition)の略で、目的となる薄膜の原料ガス(気体)を供給し、熱、プラズマ、光などのエネルギーを与えて化学反応によ