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シリカと乾燥剤 乾燥剤としてのシリカのメリット・デメリットと活用法                       

シリカ

このページを読むとわかること

  • シリカゲルが乾燥剤として用いられる理由
  • シリカゲルの乾燥メカニズム
  • シリカゲルは加熱再生により劣化します

はじめに

乾燥剤として使用されるシリカの代表格としてシリカゲルがあります。シリカゲルは、化学吸着、物理吸着のダブルの効果により水を吸着能力が非常に高いです。

更に、構造をコントロールすることにより、乾燥ばかりではなく、湿度コントロール(調湿)を行うことができます。しかし、この優れた能力も無限ではなく、再生により必ず劣化します。今回は、シリカゲルがなぜ乾燥剤として重用されるのかを乾燥のメカニズムと併せて解説していきます。

更に、度々議論となります『シリカゲルの再生』について、技術的観点で解説しています。

乾燥とは

乾燥とは、目的のものから水分を除去し、乾いた状態にすること、または乾いた状態になっていることをいいます。水分を除去する方法は、熱によるもの、乾燥剤によるものに大別されます。

また、一般的には、水分を気化させ、液状の水分をなくすか少なくすることを指しますが、空気中の湿度が低い場合にも乾燥という言葉を使うこともあります。乾燥には、水分量、熱源、湿度の3要素が非常に大切で乾燥装置の設計には、被乾燥物の水分の割合を正しく把握することが重要です1)

乾燥剤とは

乾燥剤とは、空気や物体から水分(湿気)を吸収し、乾燥状態を維持する製品です。食品や医薬品、機械や金属、住宅など、さまざまな業界や用途で使用されています。

食品では、クッキーやおせんべい、海苔などの湿気により品質が劣化してしまう食品のパリパリ・サクサクとした食感を維持するために使用されます。また、医薬品では性能劣化を防ぐ効果もあります。機械や金属ではさび発生を防ぐ働きがあり、住宅では床下調湿剤として使用したり、長期間の輸送(海上コンテナ・陸上輸送等)などの高湿度空間での結露防止用途にも使用されます。

乾燥剤は、通常、封入された袋や容器内に入れることにより、湿気を吸収し続けます。湿気を吸収し尽くすと、乾燥剤は交換する必要があります。また、乾燥剤の効果は永遠ではないため、再利用する時にはすでに効果がなくなっていることもあります。

乾燥剤の種類は様々で、原料や性質、用途によっても異なります。主成分として「シリカゲル(二酸化珪素)」や「生石灰(酸化カルシウム)」などが使用されています2)

シリカゲル

シリカゲルは、20世紀初頭に潜水艦内部の乾燥を目的としてアメリカで量産化されており、昔から使用されている工業材料の一つです。

工業的にはケイ酸ソーダに硫酸を加えて作られ、中和反応により製造されます。

ケイ酸ソーダ中のシリカは硫酸との中和反応により一次粒子が形成され、この一次粒子同士が密に結合して三次元構造が形成されることでシリカゲルが作られます。この一次粒子から三次元構造が形成される工程をゲル化と呼びます。

このため、シリカゲルのことをゾル・ゲルシリカ、ゲル法シリカとも呼ばれます。

シリカゲルの製造方法の詳細は、シリカゲルの解説記事でご確認ください。

シリカゲルのタイプ(形)

シリカゲルは、ナノサイズの一次粒子が集まって形成される細孔を有しているのが特徴で、細孔径や比表面積は一次粒子の大きさと結合度合いによって決まり、製造過程でこれらを調整することで多様な種類のシリカゲルが作られます。シリカゲルは、RD、A、B、IDの4つのタイプに分類され、それぞれ異なる密度と物性を持っています。A形は乾燥用、B形は調湿用としてJIS規格3)に基づき定義されており、RD形とID形は業界規格4)に基づきます。RD形は比表面積が最も大きく(約700m²/g)、細孔容積が最も小さい(約0.4ml/g)。一方、ID形は比表面積が最も小さく(約300m²/g)、細孔容積が最も大きい(約1.2ml/g)。A形とB形は、比表面積と細孔容積のバランスが異なり、ID形はオストワルド熟成により一次粒子が結合し、さらに比表面積が小さくなる代わりに細孔容積が大きくなる特徴があります。乾燥剤には、包装用乾燥剤として規格化されているA形、B形、ID形がよく用いられます。

Fig1.  タイプ(形)とシリカゲルの基本物性とその粒子構造のイメージ

シラノール基と吸湿のメカニズム

シリカゲルは、化学吸着と物理吸着の両方で水を吸着するため高い乾燥能力を有しています。シリカゲルには、孤立シラノール基、内部シラノール基、水素結合性シラノール基の3種類があり、水はシラノール基に水素結合により吸着されます5)

更に、シリカゲルの細孔内では毛細管現象が起こり、細孔内の水が凝縮されることで乾燥機能が強化されます。シリカゲルの吸着特性はタイプによって異なりRDとA形は低圧(低湿度)領域で高い吸着性能を持ち、主に食品や精密機械の防湿に使用されます。B形は中圧から高圧(中湿度から高湿度)領域で吸着性能が高く、更に、脱着によるヒステリシスが大きいため湿度調整剤や結露防止に利用されます。ID形は低圧では吸着性能が低いが、表面接触により大量の水分を吸着できるため、流動性改良剤などに使われます6 )

流動性改良剤は、食品医薬品によく用いられています。

吸着等温線

シリカゲルの乾燥能力を示す指標として吸着等温線がよく用いられます。吸着等温線とは、吸着等温線とは、一定の温度で材料の圧力と吸着量の関係をグラフ化したものです。温度により吸着量は変わるため、何度で測定したかが吸着等温線は非常に重要となり、一般に常温(25℃)で測定したものがよく用いられます。

吸着等温線は、横軸に相対圧(P/P0)、縦軸に吸着量(g/gシリカゲル)をプロットします。このとき相対圧は水を対象としている場合、相対湿度(湿度)と同じことになり、相対圧0.1の場合、相対湿度10%となり、一方、相対圧が1.0は、湿度100%ということになり、このときの吸着量が細孔容積を表します。

シリカゲルは各タイプ‘(形)毎に特徴があり、吸着等温線に現れます。

RD形、A形シリカゲル

RD形やA形シリカゲルは相対圧(P/P0)0~0.3付近の低湿度領域において水分吸着量(吸着量)が高く、RDはA形に比べて比表面積が高いため、すべての相対圧で水分の吸着量は高めとなります。

B形シリカゲル

B形シリカゲルは、相対圧0.5から0.9付近まで相対圧の上昇に伴い吸湿量増大して0.9付近では吸着量がRD形の2倍程度となります。更に、B形シリカゲルは相対圧の低下に伴い吸着量が低下します。このとき、吸着量と脱着量差が生じ、この差をヒステリシスループまたは単にヒステリシスといいます。このヒステリシスががB形シリカ独自の特性で、相対圧が高いときには水分を吸着し、相対圧が低くなると取り込んだ水分を放出します。このため、B形シリカゲルは『呼吸するシリカゲル』とも言われています。

ID形シリカゲル

ID形シリカゲルは、相対圧0.9付近、つまり湿度90%で急激に吸着量が増えるため、自分から水を吸着する能力は、他のタイプのシリカゲルに比べて劣ります。
相対圧が1.0は、湿度100%ということになり、このときの吸着量が細孔容積を表していて、ID形シリカゲルは1.2 ml/gとなり、他のシリカゲルに比べ水を保持する量は最も大きくなります。

Fig2. シリカゲルの25℃における吸着等温線と吸脱着イメージ

それぞれのシリカゲルの形により吸着等温線が異なる理由は、シリカゲルの表面特性から起因する吸着メカニズムと粒子構造が関係します。Fig3にシリカゲルの粒子構造とシラノール基の種類について示します。

シリカゲル表面にはシラノール基が存在し、それぞれ、孤立シラノール、水素結合シラノール、シラノール基の水素結合により吸着水を有したシラノール基に分類することができます。この内、水素結合性シラノールや吸着水は、水を吸着する時に障害となるため十分に乾燥する必要があり、水分を測定する場合には、170〜190℃で2時間以上乾燥を行い算出します。7

吸着量の測定は、この秤量瓶を硫酸の希釈により各相対湿度に48時間暴露させた吸着量から吸湿率を求めます。

吸湿メカニズム

シリカゲルの吸湿メカニズムは、シラノール基と毛細管凝縮と密接な関係があります。

シラノール基

シリカゲルのシラノール基は、内部シラノール、水素結合性シラノール、孤立シラノールに分類できます。

Fig3. シリカゲルの粒子構造とシラノール基の種類

孤立シラノール基と水素結合性シラノール基の存在はIRスペクトルで確認でき、孤立シラノ ール基は隣接したシラノ ール基が無いため3747cm-1 に鋭い吸収が現れます。一方、水素結合型シラノール基は、隣接したお互いのシラノ ール基どうしが水素結合しており3000-3800cm-1 に吸収が現れます。

Fig4にシラノール基のIRスペクトル特性を示します。室温から600℃まで加熱した場合、加熱により水素結合性シラノール基のピークは減少する反面、孤立シラノール基のピークは鋭くなってきているのが確認できます。これは、加熱により、シラノール基から吸着水や水素結合性シラノール基から水分子が取れて孤立シラノール基が生成していることを表しています8)

Fig4.シラノール基のIRスペクトル特性

毛細管凝縮

内部シラノールは孤立シラノールの一種でシリカゲルの細孔内部に存在するため、はじめにこの内部シラノールに水が吸着され、吸着水が結合したシラノールになります。次に、吸着した内部シラノール基の増加により多分子吸着層という水膜が表面に形成されます。多分子吸着層による水膜は、毛細凝縮を促し、更に水が吸着されます。

毛管凝縮とは別名毛細管凝縮といい、多孔質の固体が毛管現象により蒸気を取り入れて凝縮させる現象.気体が臨界点以下で毛管と接したとき液体となって凝縮するのは次の式(毛管凝縮式)で表すことができます9)

$$
\log_{10} \left( \frac{p}{p_s} \right) = \frac{-2\sigma V}{rRT}
$$

ここで ps は液体が平面のときの蒸気圧,p は毛管内の蒸気圧,σ は表面張力,V は分子容,r は毛管の半径,R は気体定数,T は絶対温度である.この式から,r が小さいほど p も小さくなり,凝縮しやすくなることがわかり、実験的にもこの通りとなることが確認されています。

前者の水素結合による水の吸着は化学結合で、後者の結合は毛細管凝縮による物理吸着になります。

また、吸着により吸着熱は、空気中から水を引っ張ってくることによるエネルギーを相殺するときに生ずるため、吸着熱が大きいものほど水吸着(乾燥)能力が高くなります。

Fig5. シリカゲルの水の吸着(乾燥)イメージ

乾燥と調湿

シリカゲルは、乾燥剤として広く用いられていますが、調湿剤としても用いられます。

調湿とは空気中の湿度を調整する操作です。

乾燥用のシリカゲルは、A形シリカゲルに分類されます。A形シリカゲルは、封入された袋や容器内に入れることにより湿気を吸収します。一方、調湿用のシリカゲルであるB形は、乾燥状態をコントロールして最適な湿度の状態を作る操作を調湿といいます。このようにシリカゲルによる乾燥と調湿は湿度と密接な関係があります。

湿度

湿度とは、空気中の水分量のことです。湿度には絶対湿度と相対湿度がありますが、普段使われてる湿度という言葉は主に「相対湿度」のことを指します。相対湿度はその温度で含むことができる水蒸気量の上限を飽和水蒸気量といい相対湿度では100%で表されます。相対湿度とは飽和水蒸気量に対して実際にどの程度水蒸気が含まれているかをパーセンテージで表したものです。

しかし、温度によって空気中に含むことができる水蒸気量の上限は変わります。高温状態では相対湿度は上がり、低温になると下がります。冬に空気の乾燥を感じるのはこのためです。結露とは、低温になることで空気の飽和水蒸気量が小さくなり水分が気体から液体になる現象です。

Fig6.温度と飽和水蒸気量との関係

相対湿度と絶対湿度

相対湿度

一般的に天気予報などで聞かれる湿度50%は、相対湿度と呼ばれる数字です。空気中には気温ごとに水蒸気を含むことが出来る量の限界(飽和水蒸気量)が決まっていて、その限界までのうち何%含んでいるかを示しています。つまり、相対湿度は空気中に含まれる水蒸気の割合を表しています。

このため、気温30℃と15℃の場合では、同じ相対湿度でも水蒸気量が変化することになり、温度30℃と15℃における湿度50%のイメージを示します。

同じ湿度50%でも、気温が異なれば水蒸気の量は変わります。

Fig7.温度30℃と15℃における相対湿度50%のイメージ10)

絶対湿度

「絶対湿度」とは、縦横高さ1メートルの空間に含まれる水蒸気の重さが何グラムかを示しています。つまり、絶対湿度は空気中に含まれる水蒸気の自体の量を表しています。

気温が30℃相対湿度50%だとすると、絶対湿度は15.2g/㎥となります。もし、相対湿度は50%のままでも気温が15℃に下がると、空気中に含まれる水蒸気の量、絶対湿度は6.4g/㎥にまで下がることになります。

Fig8.温度30℃と15℃における絶対湿度のイメージ10)

シリカゲルによる乾燥・加湿(調湿)

乾燥

Fig9にシリカゲルによる乾燥イメージを示します。

湿潤した空気中にシリカゲルを投入するとシリカゲルの細孔に水分が吸収され、乾燥空気となります。この乾燥空気は水を吸着するため、付近に湿潤物があると乾燥されます。

吸着等温線のところで述べたように、乾燥が得意なシリカゲルはA形、若しくはID形になります。

ちなみにシリカゲルによる乾燥は、晴天時は大気が乾燥しているため洗濯物が乾きやすく、雨天時が乾きに難いのと同じ原理となります。加えて、湿潤物にシリカゲルが接触すると湿潤物から直接水を奪うため、乾燥速度が速くなります。シリカゲルはこのように2通りの乾燥を行うことができるため、乾燥剤として広く用いられています。

Fig9.シリカゲルによる乾燥イメージ

また、シリカゲルが細孔中に水を取り込む時に吸着熱が発生しますが、これは、空気中で自由に運動している水分子の運動エネルギーがシリカゲル細孔中に吸着されると、運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、この熱エネルギーが吸着熱となります。このため、シリカゲルを冷却することによりより吸着能力は増大します。

Fig10.吸着熱の発生メカニズム

加湿(調湿)

Fig11にシリカゲルによる乾燥イメージを示します。

乾燥した空気中に水分を含んだシリカゲルを投入すると、シリカゲルの細孔から水分が放出され、湿潤空気となります。この湿潤空気は水を放出するため、付近に乾燥物があると加湿されます。

細孔から水分が放出することにより空気は湿潤(加湿)されます。吸着等温線のところで述べたように調湿が得意なシリカゲルはB形シリカゲルとなります。

Fig11.シリカゲルによる調湿イメージ

シリカゲルの再生

加熱により、シリカゲルは再生できるか?と度々議論になることがあります。結論から申し上げますと、再生はできますが、完全には戻りません。また、再生を行うたびに確実に吸湿能力は落ちます。

再生による吸湿能力の低下は、次のような理由で起こると考えられています。

まず、シリカゲルの細孔中に満たされた水を除去する時には、通常、加熱乾燥により除去します。このとき、シリカゲルの細孔から水が抜けるとき全体は収縮しようとします。しかし、このとき同時に細孔が収縮しない方向に界面張力が働くため、乾燥時は収縮する力と界面張力が拮抗する形となり、全体に縮みますが、細孔容積は維持される形となります。このため、比表面積と細孔容積を測定すると細孔容積は殆ど変化しませんが、比表面積は低下します。比表面積が低下して細孔容積が維持されているということは、細孔径が増大することになります。

Fig12. 加熱によるシリカゲルの構造変化のイメージ

比表面積低下の影響

比表面積と細孔容積と細孔径の関係は次の式で表すことができます。
$$
PD = \frac{4000 \times PV}{SA}
$$

PDは細孔径(nm)、PVは細孔容積(ml/g)、SAは比表面積(m2/g)となります。

このとき、比表面積700 m2/g、細孔容積0.4(ml/g)のシリカゲルが加熱再生により550 m2/gまで低下したと仮定すると、細孔径は次のようになります。

SA(比表面積)700 m2/gの場合

$$
PD = \frac{4000 \times 0.4}{700}
$$

PDは2.3nmとなります。

SA(比表面積)500 m2/gの場合

$$
PD = \frac{4000 \times 0.4}{500}
$$

PDは3.2nmとなります。

乾燥能力は、比表面積と細孔径に依存し、比表面積が高いとシラノール基と水が接触する回数が増えます。また、細孔径が小さいほど毛管力が強いため、シリカゲルが細孔中に水を引き付ける力が強くなります。しかし、加熱乾燥により、比表面積が下がり、細孔径は大きくなるため、結果として水を引き付ける能力が落ちることになります。比表面積が700から500 ㎡/gに低下した場合、細孔直径が2.3nmと3.2nmと大きくなります。この影響は一見小さく見えますが、大幅に吸着特性が変化するB形シリカゲルの細孔直径が約6nmなので影響は大きく、さらに再生を繰り返した場合、比表面積は更に低下し、細孔直径は増大する方向に進行するためより吸着能力は更に衰えることとなります。

筆者は過去、タイプカプセル内部に乾燥目的として20年間封入されたA形シリカゲルの比表面積を測定したことがありますが、このとき350 ㎡/gまで低下していました。A形シリカゲルの細孔容積は0.4 ml/gだったので、細孔直径は4.5nmまで増大していたことになります。

ちなみに、一度このような状態なったシリカゲルは元には戻りません。

比表面積の低下と細孔径の増大は、シリカゲルを構成する一次粒子のオストワルド熟成の進行にも関係します。Fig13は、再生による比表面積の低下のメカニズムを示したものになります。

吸着水を有したシリカゲルが加熱により乾燥されると、吸着水は水蒸気に変わり外部に放出されます。このとき、シリカゲル内部では収縮する力と界面張力が拮抗する形となり、全体的に縮みますが、細孔容積は維持される形となります。このとき同時にオストワルド熟成が進みます。

Fig13.再生による比表面積の低下のメカニズム

オストワルド熟成とは、より大きな結晶がより小さな結晶を融和し飲み込んでいく.このより大きな結晶が生き残って大きく成長する様式で、シリカゲルでは特に顕著に起こり、この操作を重合(エージング)といいます。重合(エージング)は、一次粒子の接触部が溶解し、次第に境界線が不明瞭になり、最終的には一つの塊になります。
オストワルド熟成については、こちらで詳しく説明しています。

オストワルド熟成は、温度が高い、加熱時間が長く、与えられる熱エネルギーが大きいほど顕著に起こるため、なるべく低温で乾燥を行うことにより、乾燥能力の低下は抑えることができます。このため減圧乾燥が効果的です。

しかし、一般家庭で減圧乾燥は難しいため、乾燥により再生を行う場合、フライパンや電子レンジによる乾燥よりも、天日乾燥による乾燥を行うことで理論的には比表面積の低下は抑えることが「できます。しかし、天日乾燥では完全に乾燥するのは難しく水分が残存するためその分乾燥能力は落ちることとなります。

不純物による影響

Fig14に示すように、シラノール基は、水素結合により水をはじめ、フェノール、アルコール、カルボン酸、ケトンなどを吸着します。更に、イオン結合により脂肪族アミン、σ‐π結合によりにさまざまなものを吸着します。

Fig14.シラノール基の吸着機構11)

これらの有機物がシリカゲルを使用するときに存在すると、水分と一緒に吸着され、加熱再生を行う際に除去されなかったものが、シリカゲルの細孔内に蓄積されていくため、結果として乾燥能力は衰えます。

Photo1のように有機物がシリカゲルに吸着すると黄色やオレンジ色に変色します。

Photo1.有機物の吸着により変色したシリカゲル

シリカゲルを長持ちさせるポイント

以下の2点を守れば長持ちします。

1.使用しないシリカゲルは密閉容器に入れて冷暗所に保管
2.極力加熱再生は抑える

加熱再生再生回数を抑えるためには、体積当たりの重さを予め測定しておくか、湿度インジケーター剤の利用も効果的です。

用途

シリカゲル乾燥剤はそのタイプの特徴に応じ、さまざまな用途に使用されています。

Table1. シリカゲル乾燥剤のタイプ別の特徴と用途12)

A形シリカゲル

大きな比表面積を有し、特に湿度の低い場合に優れた吸着力を有するため、一般的な乾燥に適しています。このため、食料品、医薬品、化学薬品、写真材料、精密機械及び部品等の防湿や、計装用ドライヤー、自動車のオートレベライザー、脱湿装置等、われわれに身近な製品から工業材料まで幅広く使用されています。

プロ野球との関係

『プロ野球とシリカゲル』一見つながりが内容に見えますが、実は大変密接なつながりがあります。

事のはじまりは1985年、当時ロッテ・オリオンズのコーチだった広野功から「バットを湿気から守りたい」という相談を、前職でお世話になりました富士シリシア化学(株)がその相談を受けてバットの含水率を常8%程度に保つためA形シリカゲルとバットケースをセットで提供しました。その第1号利用者となったのが当時ロッテ所属だった落合博満さんで、落合さんが同年と翌1986年に2年連続でパリーグの三冠王を獲得したことから、一気にその有用性がプロ野球界で広まったと言われています13)

RDシリカゲル

低湿域での吸水が強く、耐水性にも優れているため、工業装置用に適しています。このため、天然ガス、水素、酸素、窒素、塩素、炭酸ガス等の工業ガス、冷媒、有機溶剤の脱水精製用に使用されています。

B形シリカゲル

A形と比較すると比表面積は小さいが、細孔容積が大きく湿度の高い場合で高い吸水性能を示すので、高湿域の結露防止に適しているため、湿度調整用、結露防止用。輸出梱包の防湿用に使用されています。

床下用調湿剤

B形シリカゲルは床下用調湿剤として用いられています。高温多湿の日本では、住宅の湿気対策は必要不可欠です。特に床下など家を支える部分の湿度管理は重要です。

B形シリカゲルを床下に散布することで、夏場の湿度が高い時期にはB形シリカゲルは吸湿し、その反面、冬場の乾燥時期には、B形シリカゲルから吸着した水分を放出することで、一年中床下は同じ湿度になるため、結果的に家が長持ちするということになります。

B形シリカゲルの持つ調湿はファース工法という建築工法にも採用されています。ファース工法により建てられた「ファースの家」は、外気からの新鮮技術は、空気を高効率型熱交換器により室内温度に近づけてからサイクル用送風ファンユニットによって床下に送り込み、空気の上昇による空気循環換気を行います。この時、床下の「ファースシリカ」に空気が触れますが、「ファースシリカ」は調湿機能の他、空気中のホルムアルデヒドなどの化学物質やタバコの臭い、その他の有機ガスなどの汚染物質を吸着し、更には空気をきれいにする効果もあります。その空気が家中に行き渡るという特徴を有しています14)

ID形

比較的大きな細孔容積を持ち、高湿度域(RH90%以上)では、特に高い吸湿率を示します。

又、細孔容積の大きいため浸透がしやすいため、触媒の担体に適しています。このため触媒担体や、微粒子のものは固結防止剤に使用されています。

まとめ

乾燥剤として用いられるシリカの中で、シリカゲルがよく用いられます。シリカゲルはその特徴からA、RD、B、IDに分類され、乾燥にはA、RD形が好適です。一方、B形シリカゲルが相対湿度50%から90%の領域で水分を出し入れすることができるため、別名『呼吸するシリカゲル』とも呼ばれ、調湿用途によく用いられています。更に、ID形には吸湿能力は殆どありませんが細孔容積が大きいため、接触によりより多くの水を吸着することができます。これらの吸着特性は25℃における吸着等温線から読み取ることができます。

また、加熱により、シリカゲルは再生できるか?と度々議論になることがあります。結論から申し上げますと、再生はできますが、完全には戻りません。また、再生を行うたびに確実に吸湿能力は落ちます。この理由として、吸着水を有したシリカゲルが加熱により乾燥されると、吸着水は水蒸気に変わり外部に放出されます。このとき、シリカゲル内部では収縮する力と界面張力が拮抗する形となり、全体的に縮み、比表面積は低下しますが、細孔容積は維持される形となります。このとき同時にオストワルド熟成が進みます。比表面積が低下するということは、細孔直径が増大しますので毛管力も低下します。このように加熱乾燥によりシリカゲルの内部構造が変化するため、吸湿能力は落ちます。更に、シラノール基は有機物を吸着しやすいため、これが細孔中に残存すると更に吸湿能力は低下します。
シリカゲルを長持ちさせるポイントとしては、使用しないシリカゲルは密閉容器に入れて冷暗所に保管、極力加熱再生は抑えることが重要で、加熱再生再生回数を抑えるためには、体積当たりの重さを予め測定しておくか、湿度インジケーター剤の利用も効果的です。

参考文献

1)(株)大河原製作所 https://www.okawara.co.jp/column/150/
2)佐々木化学薬品(株)https://www.sasaki-c.co.jp/kotoba-k/desiccant.html
3)JIS Z 0701包装用シリカゲル乾燥剤 (1977)
4)R.K.ILER, The Chemistry of Silica
5)近藤ら 吸着の化学 丸善 pp. 204-208 (1991)
6)富士シリシア化学株式会社 サイロページカタログ
7)JIS K 1150 (1994) シリカゲル試験方法
8)富士シリシア化学(株)テクニカルブレタン『シリカゲルの表面処理』
9)朝倉書店 法則の辞典
https://kotobank.jp/word/%E6%AF%9B%E7%AE%A1%E5%87%9D%E7%B8%AE%E3%81%AE%E5%BC%8F-791418
10)ウェザーニュース https://weathernews.jp/s/topics/202002/280095/を参考に筆者作成
11)岡田延弘, “沈降シリカと応用”, 第5章 p. 271 (2002) シーエムシー出版を参考に筆者作成
12)富士シリシア化学株式会社 フジシリカゲルカタログを参考に筆者作成
13)^ a b c “竜CHANCE ペナントレース編”. 東京中日スポーツ: p. 3. (2009年8月26日)
14)(株)福地建装 https://www.fas-21.jp/fas/

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