シリカは、食品工業においても不可欠な素材で、粉末食品の固結防止剤、ビール等のろ過助剤、チューンガムの増粘剤等幅広い用途で使用されています。
食品は口に含むものですから、使用できるシリカは食品添加物に規格に適合したものしか使用できません。
食品添加物
食品添加物は、保存料、甘味料、着色料、香料など、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用されるものです。
厚生労働省は、食品衛生法に従って食品添加物の安全性について食品安全委員会による評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合に限って、成分の規格や、使用の基準を定めたうえで、使用を認めています。
また、使用が認められた食品添加物についても、国民一人当たりの摂取量を調査するなど、安全の確保に努めています1)。
食品添加物公定書
食品添加物は、食品衛生法に定めれられたものしか使用できません。食品添加物は食品添加物公定書に定めた規格に適合したものが
食品衛生法第21条に基づいて作成されており、食品添加物の成分の規格や、製造の基準、品質確保の方法について定めたものです。厚生労働大臣が作成・発行することが義務付けられています。
食品添加物公定書は数年毎に改訂をされていて、最新版は第10版で、2024年2月9日に厚生労働省HPに掲載されています。ちなみに、シリカに関する改訂は行われていません。
食品添加物の製造
食品添加物の製造は許可制です。この許可を取るためには、都道府県知事が定めた製造施設、製造設備などの基準に適合しなければならず、製造場所の所在地を管轄する保健所で基準等の確認が必要となります。許可なく行うと、営業停止となり、行政処分や処罰の対象とされる場合があります。
食品添加物に指定されているシリカ
食品添加物に指定されているシリカには、二酸化ケイ素、微粒二酸化ケイ素、ケイソウ土(乾燥品、焼成品、融剤焼成品に大別されます。
今回は、微粒二酸化ケイ素を中心に解説します。
Fig1.食品添加物に使用されるシリカ2)
微粒二酸化ケイ素
二酸化ケイ素のうち、微粒のものであり、強熱したものは、二酸化ケイ素(SiO2)99.0%以上含むものと定義されています。性状は、平均粒子径15μm以下の滑らかな触感をもつ白色の微細な粉末であり、においがなく、味がないものとなります。
これらを確認するためには、確認試験、純度試験、乾燥減量、強熱減量の試験項目があり、これらの項目にすべてパスしたものが微粒二酸化ケイ素として使用することができます。
使用用途と添加量3)
微粒二酸化ケイ素は以下のような使用制限があるので、使用には注意が必要です。
- 使用量は、二酸化ケイ素として、食品の2.0%以下でなければいけません。
- ケイ酸カルシウムと併用する場合は、それぞれの使用量の和が食品の2.0%以下でなければいけません。
但し、特定保健用食品のカプセル及び錠剤並びに栄養機能食品のカプセル及び錠剤を除きます - 母乳代替食品及び離乳食品に使用することはできません
以下に、微粒二酸化ケイ素の試験方法を示します
確認試験
サンプル0.2gを白金製のるつぼにとり、フッ化水素酸5mLを加えて溶かし、次に加熱するとき、ほとんどが蒸発すること。
純度試験
純度試験は、水可溶物、金属等、乾燥減量、強熱減量に大別されます。
水可溶物
規格は、乾燥物に対し5.0%以下で、水に可溶している量を蒸発乾固させて測定する方法です。
サンプルを105°Cで2時間乾燥し、その2.0gを量り、水60mLを加え、電磁式かくはん機で15分間よ くかき混ぜた後、メンブランフィルター(孔径0.45μm)を装着したフィルターホルダーを用いて 吸引ろ過する。ろ液が濁っている場合には、同ーフィルターで吸引ろ過を繰り返す。容器及びフィルター上の残留物は、水で洗い、洗液をろ液に加え、更に水を加えて100mLとする。この液50mL を量り、蒸発乾固し、残留物を105°Cで2時間乾燥し、質量を量ります。
金属等
規格は以下の通りです。測定方法の詳細は、前回の解説記事を参照ください。
鉛: Pbとして5μg/g以下
ヒ素: Asとして1.5μg/g以下
ナトリウム:Na2Oとして0.20%以下}
アルミニウム: Al2O3として0.20%以下
鉄 : Fe2O3として0. 50mg/ g以下
乾燥減量
105℃2時間乾燥を行った減量は7.0%以下でなければいけません。
強熱減量
105℃2時間乾燥後、1000℃で30分間焼成を行った場合、減量は8.5%以下でなければいけません。
微粒二酸化ケイ素は、シリカの比表面積、細孔容積、平均細孔径等の物理的性質は関係なく、あくまでも上述した試験項目に合致したものになります。このため、合成シリカであるフュームドシリカ、微粉末シリカ(シリカゲル)、沈降性シリカ各タイプのものが市販されていて、これらは食品添加物グレードとして他のシリカと区分されています。
用途
微粒二酸化ケイ素は、粉末食品の固結防止剤に広く用いられています。固結防止剤とは、粉状又は晶形食品(例えば小麦粉、米粉と塩等)の凝集やブロッキングを防止し,自由に流れる状態を保持させる食品添加物です。
固化防止剤は使用される粒子は細かく(数μm),表面積が大きく(300~700m2/g)比容積(かさ密度)が高い(80~465kg/m3)等の特性を有し,食品中の水分を吸着しやすいのが特徴です。シリカを用いた固化防止剤は微細な孔を有する多孔質構造を備え,その高空隙率を利用してブロッキングを引起こす水分を吸着し,食品の凝集、ブロッキングを防止する効果があります。
Fig2に固結防止効果のイメージを示します。
Fig2. 固結防止効果のイメージ
Photo1に添加効果の一例を示します。
写真は、富士シリシア化学(株)製の微粒二酸化ケイ素(サイロページ)を食塩に添加したときの流動性改良効果を示したものになります。
下段のサイロページを添加していないものに比べ、流動性が改良されていることが確認できます。
Photo1. 微粒二酸化ケイ素(サイロページ)添加による流動性改良効果4)
水分の吸着機構
微粒二酸化ケイ素には、シリカゲル、ヒュームドシリカ、沈降性シリカタイプがありますが、構造によって水分の吸着機構が異なります。Fig2に各シリカの構造イメージを示します。
Fig2. 各シリカの構造イメージ
フュームドシリカは、一次粒子が短鎖状に凝集(数珠状)に凝集している構造をしています。シリカゲルは、シリカ一次粒子から形成される骨格が発達しているため、堅牢な細孔構造を有しているのが特徴です。更に、沈降性シリカは、ヒュームドシリカのように一次粒子が短鎖状に凝集していますが、一次粒子がヒュームドシリカに比べて大きいのが特徴です。
これら構造の違いは水分の吸着機構に影響します。Fig3にシリカゲルの表面と水吸着機構、Fig4にフュームドシリカの水吸着機構を示します。
Fig3. シリカゲルの表面と水吸着機構のイメージ
シリカゲルは一次粒子が密に集まり、ぶどうの房のような構造をしていて、一次粒子が強固に結合して二次粒子を構成しています。また、シリカゲルの表面には、孤立シラノール基をはじめ水素結合性シラノール、細孔内部に存在する内部シラノール基などさまざまなシラノール基が存在しています。更に、孤立シラノール基は水素結合により、吸着水が引き付けられたままで存在している場合もあります。
シリカゲルの水吸着機構は、最初にシラノール基の水素結合により水を引き寄せて、単分子吸着から多分子着層が形成され、その後、細孔の毛細管凝縮により水が引き込まれるという2段階で進行します。
一方、ヒュームドシリカや沈降性シリカは、一次粒子から形成される細孔構造が未発達で、基本的にはシリカゲルのように基本的には内部シラノール基が存在しないため、孤立シラノール基が剥き出しになっているため水素結合が強く、粒子同士が凝集しやすいという特徴があります。
Fig4にフュームドシリカの表面と水素結合による凝集のイメージを示します。
Fig4.ヒュームドシリカの表面と水素結合による凝集イメージ
固結防止効果は、対象物の表面の水が接触により細孔に取り込まれます。このため、シリカゲルは、一次粒子の発達により形成された細孔に水が取り込まれます。一方、フュームドシリカは凝集による細孔に水が取り込まれます。
Fig5.シリカゲルとフュームドシリカの水分の吸収機構(イメージ)
製品と特徴
Table1. おもな微粒二酸化ケイ素4)、5)、6)
Table1に国内で流通してしているおもな微粒二酸化ケイ素の一覧を示します。
富士シリシア化学(株)のサイロページ(SYLOPAGE)はシリカゲルタイプの微粒二酸化ケイ素で、比表面積が低めで細孔容積が大きい吸収量が高いタイプと、比表面積が大きく細孔容積が小さい水分を引き込む力(乾燥力)が高いタイプ、更に平均粒子径が2.7~5.0μmの間でシャープに制御されている特徴があります。
また、沈降性タイプではDSLジャパン(株)のカープレックス(CARPLEX)、フュームドシリカタイプでは日本アエロジル(株)のアエロジル(AEROSIL)があり、これらは、比表面積が小さい傾向があり、これは、先に示したようにそれぞれの構造に由来してます。
使用例
微粒二酸化ケイ素は、食品の固結防止剤や流動性改良剤をはじめ香料等の有効成分の担持・粉体化、各種オイルの粉体化等さまざまな分野に使用されています。
固結防止剤
固結防止剤としてされている身近な製品として、スティックタイプのコーヒーがあります。スティックタイプのコーヒーは、コーヒー、砂糖、ミルクの粉末が、一杯分の小分けされた袋に入っていて私も日頃から愛飲しています。これらの粉体は少しでも水分がある凝集してダマができてしまいます。いったんダマができてしまうとお湯を入れても非常に溶けにくくなってしまうため、ダマの発生防止に固結防止剤は威力を発揮します。
Photo1は、私が愛飲しているコーヒーからの写真です。
Photo1. 食品パッケージへの記載例
外箱と袋それぞれに成分が示されていて、固結防止剤として微粒酸化ケイ素が使用されていることがおわかりいただけると思います。
ちなみに微粒二酸化ケイ素は法律で、酸化ケイ素、微粒酸化ケイ素、微粒シリカゲルと略称を用いることができます7)。
あくまでの筆者の見解ですが、統一したほうがわかりやすいと思いますが・・・。
固結防止剤については、以下のHPにわかりやすい動画8)が掲載されていましたので、参照されてください。
流動性改良剤
微粒二酸化ケイ素は粉末の流動性改良剤にも使用されています。粉末の流動性改良は、粉末を一定に流して作業する大量生産の工程には不可欠で、食品ばかりでなく粉体扱う工程すべてに要求される性質と言っても過言ではありません。なかでも医薬品分野における錠剤の製造では、粉体の流動性が非常に重要となるため、合成シリカは軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素という名称で用いられています。さらにこれら合成シリカには滑沢効果があり錠剤製造は欠かせない添加剤の一つです。詳細については、解説記事『シリカと医薬品』をご覧ください。
この錠剤の製造方法を食品に応用したものがタブレット菓子です。タブレット菓子とは、砂糖に香料・着色料を加え、粒状に圧縮したものになり、ミンティア、ピンキーなどに微粒二酸化ケイ素が使用されています。
Photo2.ミンティア9)とピンキー10)
ピンキー『Pinky』は、湖池屋が販売していたタブレットのお菓子で、商品の中にハート型の粒が入っているものがあり、「ハート型のものを片思いの人に食べてもらうと両思いになる」という噂が広がり、当時の女子高生や若い女性の間で人気を集めました11)。しかし残念ながらピンキーは2018年に販売が終了してます。
しかし、2020年10月26日より、お口の“乳酸菌LS1(Lactobacillus salivarius TI2711株)”を含有する機能性表示食品「Pinky FRESH (ピンキーフレッシュ)」へ進化させて発売されていて12)、こちらにも微粒酸化ケイ素が使用されています13)
まとめ
今回は、食品添加物に使用するシリカの内、微粒二酸化ケイ素について解説をしてきました。微粒二酸化ケイ素は、確認試験、純度試験については厳しい規定があり、かつ認可された工場で製造できます。また、平均粒子径15μm以下という制限はありますが、比表面積、細孔容積等の基本物性に制限がありません。このため、シリカゲルをはじめ、沈降性シリカ、フュームドシリカタイプのものが上市されています。
微粒二酸化ケイ素は、一部制限はありますが全体の2wt%まで食品に直接添加できるため、粉末食品の固結防止剤や流動性改良剤に広く用いられています。なかでも、スティックタイプのコーヒーや、製剤技術を応用したタブレット食品にも使用されていて、ピンキーは2018年に終売しましたが、2020年に機能性食品として復活を遂げていて、ここにも微粒酸化ケイ素という名称で使用されています。
このように、微粒二酸化ケイ素は、食品の機能化に広く貢献していて、今後ますます食品の複合化、高機能化が需要の高まりとともに成長が期待されます。
参考文献
1)厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/index.html
2)食品添加物公定書 第10版(2024年)
3)食品添加物公定書第10版(2024)p. 1601
4)富士シリシア化学株式会社 サイロページカタログ
5)DSL.ジャパン(株) カープレックスカタログ
6)日本アエロジル(株)アエロジル製品カタログ集第10版
7)食品衛生法に基づく添加物の表示等 消食表第517号(平成24年12月28日)
8)子ども化学チャンネル https://www.youtube.com/watch?v=imvh4zurhHs
9)アサヒ飲料(株)https://www.asahi-gf.co.jp/products/confection/tablet/mintia/regular/4946842501908.html
10) GigaZine 地域限定Pinky全8種類48個をずらっと並べてみたhttps://gigazine.net/news/20111128_pinky-npb/
11)Sirabeeグルメ 「ピンキーちょうだい」でおなじみのアレ、進化していた メーカーの気遣いに感動… https://sirabee.com/2022/05/30/20162863897/
12)(株)湖池屋プレスリリースhttps://koikeya.co.jp/news/detail/1148.html
13)(株)小池屋 https://koikeya.co.jp/pinkyfresh_item/index.html
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