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笛田・山田技術士事務所

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合成シリカと細孔

目次

細孔とは

物質工学における 細孔(さいこう)とは、多孔質や多孔質材料が持つ微細な空孔のこと。孔の大きさによってマイクロ孔(ミクロ孔、マイクロ細孔、マイクロポア)、メソ孔(メソ細孔、メソポア)、マクロ孔(マクロ細孔、マクロポア)に分けられる。IUPAC では触媒分野において、直径 2 nm 以下の細孔をマイクロ孔、直径 2–50 nm の細孔をメソ孔、直径 50 nm 以上の細孔をマクロ孔と定義しています1)

細孔とその分布

細孔は物理吸着の場として、その大きさに合う物質を取り込む特性が利用される。細孔を持つ多孔質の代表例としてゼオライト、メソポーラスシリカ、活性炭、素焼きなどが知られる。一般に比表面積の多い方が、ガスなどの吸着性能に優れる。細孔の大きさとその体積の関係を示す評価指標として細孔分布があります。

例えば、多孔質ガラスの構造は、基本的にはマイクロメートルオーダーの網目状の骨格が繋がった構造を有しています。この特徴的な多孔体構造をモノリスといい、電子顕微鏡で観察すると、ジャングルジムのような骨格が連なった構造をしています。

Photo1. 多孔質ガラス表面の電子顕微鏡写真2)

Fig4.多孔質ガラスの細孔径分布3)

このサンプルは、55.5nmに非常に鋭いピークを持っていて、かつ全体の平均細孔径も55.6nmとほぼ同じであるとから、細孔が均一かつ非常にシャープな細孔径分布を有していることがわかります。

細孔の形成

合成シリカの細孔には、二次粒子の凝集によるもの、ゾル・ゲル法などの化学反応により強固な結合により形成された二種類のタイプがあります。

凝集によるもの

凝集による形成はヒュームドシリカや沈降性シリカに見られます。これらの合成シリカは、強固な細孔ではなく二次粒子が水素結合より互いに引き合うことで形成された細孔のため、化学反応による形成された細孔に比べ、強度は弱いものとなります。

水素結合

水素結合(hydrogen bond)とは、OHやNHなど電気陰性度の高い原子に共有結合した水素原子が、近傍の他の官能基の非共有電子対と非共有結合的に作る結合です。

Fig5に示すように、水はOとHで引き合い水素結合が形成され、同じ現象がシラノール(Si-OH)基でも起こります。

Fig5. 水およびシリカ粒子の水素結合

水素結合の強さは10〜40 kJ/molの間であり、これは、ファンデルワールス力(1 kJ/mol程度)よりは強いが、共有結合(500 kJ/mol程度)弱く適度な強さを有しています。このため、室温で可逆的な結合・解離が可能となります。

ヒュームドシリカ

フュームドシリカは、他の非晶質シリカに比べて一次粒子が小さくかつ二次粒子も小さく、かつシラノール基を有しているため水素結合も大きく、このため凝集性が非常に高い粒子です。 フュームドシリカの一次粒子は数nmから数十nm非常に小さく、この一次粒子どうしが数珠状にくっついてナノサイズの二次粒子を形成しています。したがって、二次粒子の凝集力も大きく、電子顕微鏡で観察した場合、シリカゲルのような一次粒子の凝集体のように見えますが、実際は二次粒子が集まって更に凝集体を形成するというのが特徴になります(Fig6)。

Fig6. 粒子構造のイメージと電子顕微鏡写真4)

沈降性シリカ

 沈降性シリカの細孔もフュームドシリカと同じように凝集により形成されています。

 Fig7.に示すように沈降性シリカは、一次粒子が大きいため、形成される二次粒子は粗く(疎)となります。沈降性シリカは、フュームドシリカに比べて粗い粒子の集まりで構成されています。

化学反応によるもの

細孔は、化学反応により形成されるものがあり、シリカゲル、メソポーラスシリカ、多孔質ガラス等があります。

ゾル・ゲル法

ゾル・ゲル法で作られるシリカには、シリカゲル、メソポーラスシリカ等があります。ケイ酸ソーダ中のシリカは硫酸との中和反応により一次粒子が形成され、この一次粒子が分散じている状態をゾルといいます。この一次粒子同士がくっつき三次元構造が形成されることをゲル化といいます。このように一次粒子から三次元構造が形成される工程をゲル化と呼ばれ、ゾルからゲルへの進行反応をゾル・ゲル反応といいます。

シリカゲル

シリカゲルはこのゾル・ゲル反応が顕著に起こることで細孔が形成されるので、シリカゲルのことをゾル・ゲルシリカ、ゲル法シリカとも呼ばれます。

Fig8に示すようにシリカゲルは、直径 数nm~数十nmの一次粒子(骨格粒子)がたくさん集まって構成されていて二次粒子が製品となります。一次粒子の集合により、細孔が形成され、電子顕微鏡で観察すると、白色部がシリカ一次粒子の凝集、黒色部は細孔でその存在が確認できます。細孔径、細孔容積、比表面積は、一次粒子径とその結合度合いに影響されるため、これらを制御することにより、さまざまな種類のシリカゲルを製造することができます。

Fig8.シリカゲルの粒子構造のイメージと粒子表面の電子顕微鏡写真

シリカゲルは、他の非晶質シリカに比べ、ゲル化による3次元構造が発達していて強固です。このため、粒子が崩れにくく細孔も強固であることから細孔容積が大きく、更に内部比表面積の存在により比表面積が高くなります。

メソポーラスシリカ

メソポーラスシリカは、液体のシリカ源に界面活性剤を加えて反応させます。シリカ源には、液体ではケイ酸ソーダ(Na2OSiO2)からイオン交換によりナトリウム(Na)を除去した活性ケイ酸6)やアルコキシシラン、粉体では層状カネマイト等が用いられます。

活性ケイ酸とは、ケイ酸ソーダからイオン交換等でNaを除いたもので、非常に活性が高く、ゲル化をしやすいため、こう呼ばれます。

Fig9. MCM-41の合成イメージ7)

Fig9にメソポーラスシリカの一種であるMCM‐41の合成イメージを示します。

MCM‐41は、カチオン性界面活性剤である “ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド” (C12H25N(CH3)3Cl: C12TMACl) のミセル溶液を塩基性にしてアルコキシシランの一種であるテトラメトキシシラン(TMOS)を添加することにより、カチオン性ミセルが集合した六方晶系(ヘキサゴナル)構造が形成され、親水基でカチオンであるアンモニウム基のまわりにアニオンであるシリケートが配位する構造、つまり棒状ミセルをシリカで包んだ集合体ができます。これは有機化合物である界面活性剤と無機化合物であるシリカが複合した、“有機無機ハイブリッド物質” となっています。

この、有機無機ハイブリッド物質を焼成処理により界面活性剤を除去することでメソポーラス構造体が得られます。

Photo2にMCM-41のSEM写真を示します。

Photo2.MCM-41のSEM写真8)

このMCM-41は、粒状で、内部の細孔径は、ヘキサゴナル構造をしていることが確認できます。

この構造は、別名ハニカム構造と言われ、ハニカム(Honeycomb)は英語で「ミツバチの櫛(=ハチの巣)」という意味です。「ハニカム構造」は、強度を損なわずにできる限り必要な材料を少なくできる(軽量化)できる構造として、幅広い場面で使用されています。

このMCM-41は、粒状で、内部の細孔径は、ヘキサゴナル構造をしていることが確認できます。

「ハニカム構造」は、強度を損なわずにできる限り必要な材料を少なくできる(軽量化)できる構造として、幅広い場面で使用されています。

このように、メソポーラスシリカは細孔の形状と径が揃っているのが最大の特徴で、この細孔形状を有したシリンダー状、球状、板状とさまざまな形のものが作られています。

Fig2に細孔形状が六角(ヘキサゴナル)形の細孔形状を有したメソポーラスシリカ(MCM-41 )とシリカゲルの断面のイメージ図を示します。

Fig10. メソポーラスシリカとシリカゲルの断面イメージ

メソポーラスシリカは、細孔の形状と径が揃っているため、シリカゲルのような網目状の細孔のものに比べて比表面積が非常に大きく、最も比表面積が大きなRDタイプのシリカゲルに比べて1.25から1.75倍の高い比表面積を有しているため、低湿度領域の吸着量がRDシリカゲルの吸着量を上回ります。

更に、Fig3のように吸脱着によるヒステリシスが殆んどありません。 このような吸脱着に伴う吸湿率の差をヒステリシスといい、Bタイプシリカゲルには顕著に現れます。このヒステリシスを利用することで、Bタイプシリカゲルは調湿剤として用いられています

Fig11. MCM-41 の吸脱着等温線(N2, 77K)9)

多孔質ガラス

多孔質ガラスは、Fig6のようにケイ酸ソーダの原料のカレットの製法と原理的には同じです。はじめに、SiO2(ケイ砂)、H3BO3(ホウ酸)、Na2CO3(ソーダ灰)を混合し、溶融によりNa2O-B2O3-SiO2系ガラスを作製します。これを成形した後、数百℃で熱処理を行うと、ガラス内部でSiO2リッチ相とNa2O-B2O3リッチ相に数nmのスケールでスピノーダル分解により分相が起こります。

通常溶液は濃度の高いところから低いところへと物質が移動して濃度の差をなくそうとしますが、ある条件のもとでは逆に濃度の高いところへ移動することがあり、濃度の高い部分と低い部分とが入り組んだ構造になります。こうした現象をスピノーダル分解といいます。

スピノーダル分解により、SiO2リッチ相とNa2O-B2O3リッチ相に分相されたガラスを酸溶液に浸漬すると、Na2O-B2O3相のみが酸で溶出され、SiO2骨格を持つ多孔質ガラスが得られます(Fig12)。

多孔質ガラスは細孔径分布がシャープなため、分離フィルターや触媒の担体などをはじめ、クロマトグラフィー用担体、エマルション調製用デバイスや有害物質の吸着等に用いられています。更に、最近では生体触媒や固定化酵素用の担体として用いられています。

Fig12. 多孔質ガラスの製法と分相のイメージ10), 11)

また、多孔質ガラスはゾル・ゲル法でも作られ、テトラエトキシシラン(TEOS)のようなアルコキシドシランの加水分解反応により、ケイ酸モノマーを生成させて作られます。

Fig13. ゾル・ゲル法における多孔質ガラスの製造プロセスと細孔の形成イメージ12)

このように、合成シリカの細孔は、製造法によりさまざまな種類のものがあります。

これら細孔をどのように測定するかを次に解説します。

細孔の測定法

合成シリカは粒状や粉状のものが多く、これらの細孔の重要な指標は細孔容積と細孔径で、さまざまな測定法があります。このとき、粒子の大きさにより細孔容積が変わるため、正しい値を得るためには、あらかじめ測定試料の粒度を揃えていくことが重要です。

例えばシリカゲルの場合、あらかじめ42~100 mesh(355~150 µm)の篩を用いて粒度調整を行います。

細孔容積

細孔の容積を表す方法は、単位重量に対する容積(ml、cc、cm3)で表されます。

細孔容積は、粒度により異なるため、粒度が著しく大きい試料については解砕して篩で粒度を揃えます。更に、粒度が揃っていないものについても篩で粒度を揃える必要があり、42~100 mesh (150~355 μm)の目開きの篩で粒度を揃えるのが一般的です。

水滴定法

単位重量に対する水の吸収量(ml、cc)から求める方法で、通常はシリカ1g当たりで表します。

容器は50ml程度のマヨネーズ瓶を用いて、この中にサンプルを入れてビュレットで水を滴下して攪拌しながら終点を求めます。終点は、細孔に水が満たされた時点が終点で、これを超えると一気に凝集が始まります。この終点の求め方が難しく、終点付近に一気に水が入ると終点を超えてしまい正しい終点を求めることが難しいため、少量ずつ水を求めるのがキーポイントとなります。

この方法は、球状では数µmのものまで測定可能ですが、不定形状のものについては、数十µmの大きさのものが限界です。

水滴定法は、終点を見極めることができれば、間便に細孔容積を求めることが可能で、更に滴下物をアルコール等の他の液体変えても同様な測定を行うことができます。

Fig14.水滴定法の方法とイメージ

吸油量

一定量の試料にあまに油を滴下し、パレットナイフで練りこみながら、終点(ペースト状)に達した時のあまに油滴下量を吸油量として算出します。

 あまに油には2種類あり、それぞれJISに規定されていて13), 14)それぞれ終点の感覚も異なります。詳細につきましては、以下のリンクにてご確認ください。

https://www.toraytechno.co.jp/technical_information/pdf/2007.pdf

合成シリカの測定に関しては、精製あまに油法を用いるのが一般的ですが、最近は精製あまに油ではなく1級のあまに油が用いられています。

この方法は微粉や形状に関係なく測定できますが、終点の見極めが難しく、更に細孔容積は、粒子間空隙を含めたものになるため注意が必要です。

Fig15に精製あまに油法の測定方法と細孔のイメージを示します。

Fig15.精製あまに油法の測定方法と細孔のイメージ

アブソープトメーター

沈降性シリカ(ホワイトカーボン)のようにカーボンブラックと同じような構造を持つシリカは、カーボンブラックの吸油量測定法のDOA吸油量で吸油量を評価する場合があり、アブソープトメーター(自動吸油量測定装置)が用いられます。

Photo3. カーボンブラックのTEM写真15)

測定は、DOA(ジオクチルアジペート)を滴下しながら混練し、所定のトルク値 に達した時の滴下量をもってDOA吸油量とします16)

原理は、回転翼によってかき混ぜられている試料にオイル(DOA)を添加すると、DOAを添加するにつれてこの混合物は自由に流動する粉体から,粘度の高い塊へと変化します。このとき、粘度特性の変化によって発生するトルクが設定値に達するか、又はトルク曲線から得られた最大トルクの一定割合に達した時点に対応するDOA添加量を測定してカーボンブラックのDOA吸収量がもとめられます17)

測定方法の詳細については、以下のリンク先の動画をご覧ください

窒素吸着法

比表面積と同じく窒素の吸着等温線から、細孔容積を求める方法です。

圧力を変化させ、そのときの吸着量を測定し、その結果を、横軸に相対圧、縦軸に吸着した量をとってプロットしたものを等温線(isotherm)と言います。特に圧力増加の方を吸着側等温線、圧力減少の方を脱着側等温線というように区別します。

Fig16にB形シリカゲルの窒素吸脱着等温線(77K)と細孔のイメージを示します。

Fig16.窒素吸脱着等温線と細孔のイメージ

窒素の吸着量は。相対圧(p/p0)の上昇とともに増加します。このときにちょうど細孔が水素分子に満たされて凝縮したときの窒素量は、細孔容積(全細孔容積)として表すことができます。

Fig17は、Fig16の吸脱着等温線(吸着等温線)から得られたB型シリカゲルの測定で、細孔容積は0.7577(cm3/g)となり、このときの相対圧(p/p0)は0.9900となります。

細孔径

シリカを取り扱う上で、細孔径は、細孔容積と同じくらい重要な指標となります。

細孔径の測定は、大きく分けると電子顕微鏡による直接測定する方法と、BJH法、水銀圧入法等の間接法等があり、Fig17のように細孔径により測定方法が選択されます。

Fig17. 細孔分布の測定方法と評価範囲18)

X線小角散乱法は、シリカを取り扱う上で一般ではありませんので、また別の機会に解説しようと思います。

画像処理法

直接、電子顕微鏡や顕微鏡で測定を行う方法です。

画像処理法では観察を行いながら細孔径を測定できる反面、局所的にしか観察できない、全体の分布を確認するのは難しいため、確認にはBJH法や水銀圧入法などを用います。

BJH

BJH法はガス吸着法の一種でBarrett, Joyner, Halenda発見者それぞれの頭文字を取ったものです。

BJH法を取り扱う場合、次のような仮定がされています19)

・細孔は全て円筒形状
・マイクロ孔は無い(毛管凝縮の理論が適用できないため)
※毛管凝縮は吸着ガス分子径の4~5倍以上の細孔径で無いと生じません。そのため、最小測定可能径は2nmとされています。
・最大相対圧ではすべての細孔が吸着ガスで満たされている

BJH法は、細孔径の大きさによってガスが吸着する挙動が異なるため、測定できる細孔容積はメソ孔(2nm)以上の径の細孔の容積になります。

BJH法はメソ孔の細孔容積の測定方法としてIUPAC(国際純正応用化学連合)推奨の方法です。

特徴として、全細孔容積だけでなく細孔径分布もわかり、BET比表面積と同様の操作を行うため同時に比表面積も測定できるという特徴があります。

BJH法で窒素ガス吸着量の解析からメソ孔の細孔径分布を求める場合、ある相対圧における全吸着量は、多分子層吸着量と毛管凝縮量の和として考えます。

ある相対圧で毛管凝縮が起こる細孔径rk (ケルビン半径)は Kelvinの毛管凝縮式で与えられます。しかし、メソ孔で毛管凝縮が起こりうる相対圧ではすでに細孔表面を多分子層吸着層が覆っており、rkは細孔半径から多分子層吸着の厚みを差し引いたものと考えられるため、Kelvin 式は以下のように表されます。

$$
r_k=-\frac{2\gamma Vmcos\theta}{RTln(\frac{p}{p_0})}
$$

rp   : 細孔半径
t  : 多分子層吸着の厚み
γ  : 液体の表面張力(77.3K にお いて9.047dyne cm-1)
Vm : 液体分子のモル容積(77K において36.45 cm3 mol-1)
θ  : 液体の細孔表面への接触角(液体窒素の場 合は0)
R :気体定数
T :絶対温度(K)
p/p0 : 相対圧

tは多分子吸着層の厚みで、吸着の進行に伴いケルビン層(rk)が形成されます。よって、細孔半径(rp)を求めるためには、多分子吸着層の厚み(t)とケルビン層(rk)を合せたものになります(Fig.18)。 

また、細孔径は円筒形状のものも変わらず計算も簡略化できるため、BJH法を取り扱う場合、細孔は全て円筒形状ものとして考えます。

Fig18.BJH法に基づいた細孔への吸着イメージ

更に、次式のように細孔直径(D)は、細孔半径(rp)を2倍したものになります。

$$
D=2r_p=2\left(t+r_k\right)
$$

実際は、吸着質が脱離するときの相対圧と吸着量の関係であるため、脱着等温線から細孔径は求められます。

Fig19にB形シリカゲルの吸着等温線とBJH法による細孔径分布を示します。

縦軸はLog微分(dV/d(logD))した細孔容積、横軸に相対圧当たりの細孔径分布を表しています。

縦軸は、細孔容積の差分を細孔径の対数扱いの差分値で割った値をプロットした細孔分布図で、積算細孔容積の変化を最も反映したグラフが得られるため、一目でどの細孔径の容積が大きいかが分かります。

細孔容積の微分値をプロットした場合、計算式の関係上、細孔径が小さいほど飛躍的に大きな数値を取るグラフとなってしまいます。このため傾向が掴みにくいためLog微分の細孔分布図が使われます。

縦軸にLog微分を用いるものは、細孔分布図で最も利用されるグラフです。
ただし、狭い範囲の細孔容積を見る時はLog微分ではなく微分細孔容積分布を用います。

Fig19.B形シリカゲルの吸着等温線とBJH plotによる細孔径分布

Fig19 のBJH plotにおける細孔径分布のグラフは縦軸dV/d(logD)、細孔径2nm付近から300nm付近での積算細孔容積の変化を反映しています。 言い換えれば、dV/d(logD)は、図上微分に最も近い形ということができます20)
また、5nm付近にピークを持ち、平均細孔径は、4.79nmであることからB形シリカゲルはシャープな細孔径分布を有しています。

このことは、B形シリカゲルの一次粒子の大きさが揃っているため、形成される細孔径も揃っていることを示唆しています。

しかし、BJH法は1~100nmの範囲で有効とはいわれていますが、50nm以上は測定誤差が大きくなるため、50nm以上の細孔径分布は水銀圧入法が用いられているのが一般的です。

水銀圧入法

水銀圧入法は別名ポロシ法とも呼ばれていて、細孔径分布の他、比表面積や細孔容積も測定できます。

Fig20に水銀圧入法の原理を示します。

表面張力γ ,接触角 θ の液体が入ると,平衡状態では表面張力により液体を押し出す方向に働く力-γcosθが発生します。このとき、-γcosθに対して液体を押し込む方向に加わる力Pは等しくなります。

Fig20. 水銀圧入法の原理18)

この関係は次の式に表すことができ、この式はWashburmの式と言われています。

$$
P=-2γcos θ
$$

Washburn式に水銀の接触角 θ=140° 水銀の表面張力σ=484 erqを代入すると細孔直径(

D)と圧力(P)は、以下に示すように非常にシンプルな式で表すことができます。

$$
D=\frac{1500}{P}
$$

D:細孔直径(nm) P=圧力 (MPa)

細孔径分布の測定

水銀圧入法で細孔径分布を測定する装置をポロシメーターといいます。

水銀ポロシメーターは、粉体あるいは多孔体の細孔径分布を水銀圧入法で自動的に測定する装置です。水銀注入圧力に対する水銀注入量の関係を測定し、この水銀注入圧力をWashburnの式で細孔径に換算します。

Fig21にポロシメーターの概略図を示します。

Fig21.ポロシメーターの概略図21)

ディラトメーター(C)中で水銀に満たされた試料は、加圧装置(F)により細孔中に水銀が侵入することにより水銀の量が変化します。水銀は導電性を有しているため上下に測定電極(A)を配置して電気容量測定器(E)にて容積の変化を測定します。このとき、圧力は圧力測定器(B)により計測されます。

ディラトメーター(C)はガラス容器でできていて下部に電極を有している、ポロシメーター専用の容器です。

ディラトメーターは、減圧、高圧用等、用途に応じてさまざまな種類のものがあります。

Photo4. いろいろなディラトメーター22)

細孔径分布は以下のように求めることができます。

細孔半径がrとr+drの間にある全細孔の容積をdVとすると

$$
dv=-Dv(r)dr (1)
$$

𝐷𝓋(𝛾)は、細孔半径の単位間隔あたりの細孔容積で表された細孔径分布関数です。このため、Washburnの式をγとθが一定であるとして微分すると、次式が得られます。

$$
Pdr+rdp=0 (2)
$$

式(1)と(2)より細孔径の分布関数は次式のようになります。

$$
Dv(r)=p(dv/dp)/r (3)
$$

この細孔分布関数にもとづき、BJH法と同様に縦軸はLog微分(DV/D(log(d))した細孔容積、横軸に圧力当たりの細孔径分布をそれぞれプロットします。

Fig22に球状の多孔質シリカのポロシチャートを示します。

Fig22. 球状多孔質シリカのポロシチャート

この球状多孔質シリカはDV/D(log(d))は、30~50nmに最大ピークを示し、併せて60~120nm付近にもピークを有していることがわかります。

縦軸DV/D(logd)は、水銀圧入量の積算値(Cumulative volume)より、全体の分布でのおよそ8割が細孔径7.5nmから180nm付近での積算細孔容積の変化を反映していて、180nm以上に存在する20%の細孔は粒子間空隙によるマクロポアなのでカットしているためです。

また、このときの平均細孔径(Average pore diameter)は、40.81nmを示しています。

細孔径が7.5nmから計測されている理由は、このポロシメーターは200Mpaまで昇圧できるため、Washburn式のD=1500/Pより、7.5nmとなります。

更に、大気圧は0.1Mpaのため、15000nm となり原理的には大気圧下の15μmの細孔径まで測定可能となり、15μm以上の細孔径を測定する場合は、大気圧以下に減圧する必要があります。

課題

ポロシメーターによる細孔径分布測定において次のような課題があります。

水銀の使用

水銀は毒物であるため、使用については排気装置の設置、作業環境測定等の対策が必要となります。また、水俣条約により測定に伴いに排出されるサンプル、ふき取りに使用した紙、洗浄に使用したアルコール等には水銀が含有しているため特別管産業廃棄物に該当します。従って一般廃棄物とは分別して保管、処分も専門の業者で行う必要があります。

粒子間空隙の取り扱い

微小な多孔体の凝集物を測定する際には、細孔が多孔体由来であるのか粒子間空隙由来であるのかを、あらかじめ電子顕微鏡等で確認しておく必要があります。

機種差

ポロシメーターは水銀接触角、表面張力から細孔径を計算するため、予めこれらの数値を入力しておく必要があります。しかし、これらの値の設定がメーカーによって異なる場合があるため注意が必要です。

筆者は過去、ユーザーから平均細孔径の測定値がユーザー測定値と大幅に異なるというクレームを受け調査した結果、水銀接触角、表面張力の入力値がユーザーのポロシメーターと異なっていたという経験があります。

細孔径測定の上限

筆者が知る限り、現在ポロシメーターで加圧できる圧力は、通常200Mpaで最高400Mpaまで上昇できる機種もあります。Washburn式から理論上、通常は7.5nm、最高で3.75nmまで測定でき、これより小さな細孔はBJH法等のガス吸着により測定されています。

水銀の代替

ガス透過法
ガスの透過するときに細孔内に充填された液が排出される圧力は、細孔径と相関するという原理を利用した測定法です。
サンプルの細孔内に濡れ性の高い液体を充填し、充填された液を押し出すようにガス圧を掛けます。
このとき圧力が小さいと、細孔内液体は圧力と表面張力の平衡により細孔内に留まるため、ガスは流れません。 しかし、圧力が毛細管圧を越えると、細孔内から液体が排出され細孔内は空になります。 ガスは空になった細孔を通過するため、このときの流量と圧力を測定することで細孔径が求めることができます。

Fig23. ガス透過法の原理23)

しかし、ガス透過法は、貫通孔のものしか測定ができないため、シリカゲルのような網目状の細孔、もしくは、フュームドシリカ、沈降性シリカのように凝集により形成された細孔に対して測定できません。

Fig24.ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、シリカゲルの粒子構造と凝集イメージ

水銀の代替
水銀は、元素の中で比較的濡れが小さいため接触角が大きく、高圧で変化せず、かつ液体であるため細孔径測定には最適な物質です。しかしなから、水銀は毒性を有するため使用や廃棄が厳しく制限されていて、この制限は更に強くなっていくものと考えられます。このため、より安全性の高い代替品の開発が必要と筆者は考えますが。ポロシメーターによる細孔径測定が特殊な分析のため、残念ながらあまり検討が進んでいないのが現状です。

まとめ

合成シリカの細孔は、シリカゲルのように一次粒子が集まって形成されるもの、ヒュームドシリカ、沈降性シリカのように二次粒子が集まって形成されるものがあります。
また、メソポーラスシリカのように鋳型を用いる方法、多孔質ガラスのように金属をリーチアウトさせる方法と、さまざまな方法があります。

合成シリカは、粒状や粉状のものが多く、これらの細孔容積や細孔径を測定する方法には、細孔にガスや液体を入れて測定を行う方法がありますが、どれも一長一短ですべてに対応できる方法は現在ありません。このため、細孔容積や細孔径を測定する場合、測定する合成シリカの粒子径、細孔の有無、凝集体であるか否などを調べておく必要があります。

参考文献

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11)矢澤 哲夫 総論:多孔質ガラスの高機能化と実用化NEW GLASS Vol.1 (2008) P4
12)中西 和樹 ゾル-ゲル法の基礎と応用―ゲル網目の形成と相分離を中心として 第30回セミナ-講演録 ゾル-ゲル法の現状と将来展望 NEW GLASS vol.8, No.3 pp. 186-187
13)JIS K 5101-13-1(2004) 第1節:精製あまに油法
14)JIS K 5101-13-2(2004) 第2節:煮あまに油法
15)前野 聖二 導電性カーボンブラック「ケッチェンブラック EC」の特徴および用途展開 機能性カーボンフィラー研究会 p.3 (2014) http://carbonfiller.web.fc2.com/file/gs2_1.pdf
16)ISO 19246 アブソープトメーター(自動吸油量測定装置)
17)JIS K 6217-4:2017 ゴム用カーボンブラック−基本特性− 第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む)
18)野呂ら 解説 比表面積,細孔分布,粒度分布測定 ぶんせき 7 p.350 (2009)
19)準研究者の賢く生きるための勉強ノートhttps://kashikoku-ikiru-benkyo.blog.jp/archives/work-bjh.html
20)(株)島津製作所 https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/powder/lecture/practice/p02/lesson06/index.html
21)近藤精一 石川達雄 安部郁雄 「吸着の科学 第3版」 丸善出版 p.63をもとに筆者作成
22)マイクロトラック・ベル(株)https://www.microtrac.com/jp/products/gas-adsorption-measurement/mercury-porosimetry/belpore/
23)株式会社アントンパール・ジャパン Quantachrome Instruments POROMETER 3Gシリーズカタログをもとに筆者作成

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