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笛田・山田技術士事務所

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シリカと植物

Facebookで予告しましたように、現在放映されている朝ドラ『らんまん』は、日本の植物学のパイオニアの牧野富太郎博士をモデルとしたドラマで筆者もハマっています。その中で植物中のシリカについて取り上げられていましたので、今回は、トレンドに乗ってシリカと植物について解説していきたいと思います。

目次

クラーク数とシリカの役割

シリカと植物の関係はたいへん密接で、これは地球の誕生と関係があります。

地球の年齢は45億歳くらいだといわれていて、今から40億年前には、もうすでに、地球の表面は冷えて固まり、地殻がつくられていたといいます。

その後、地上の生物が生きられるような、地表に安定した硬い殻ができたのが、40億年くらい前であるということですが、この殻、すなわち、地殻ができるときにその構成成分となった諸々の物質は、その後、地質学的には大変動はあったものの、全体的には本質的には変わることなく、現在も一定の割合を保ったまま、地殻中に存在しているものと考えられています1)

クラーク数とは、地表部付近からおおよそ海水面下10マイル(16km)までと定めた地殻中の元素を存在割合順で示した数です。

シリカを構成している元素である酸素(O)とケイ素(Si)は、地殻に含まれている元素の割合を多い順に表したクラーク数の順位では1位、2位を占めており、地殻中で最も多く存在する元素で構成されていて、シリカを主成分とする鉱物が数多く存在する理由の一つです。

Fig1.クラーク数とシリカ

生物とシリカ

 地殻中にシリカ(SiO2)がたくさん含まれているということは、シリカは生物の進化に密接に関わっています。シリカは溶解度が低く、100~200ppm程度といわれていますが、生物とってはケイ素(Si)は必須元素といわれ、植物をはじめ動物にも大切な元素で、ヒヨコの成長や骨格形成に微量必要であることが証明されていて、その研究の中でシリカは骨形成の初期の段階で重要な役割をもっていることが明らかにされています2)

ちなみに日本の河川水の平均シリカ濃度は26.84 mg/Lと世界の河川水の平均シリカ濃度が 11.67mg/Lであるのに対し倍以上の値で、日本の水にはたくさんのシリカが含まれています3)

シリカとケイ酸

ケイ酸とは、シリカが水中で溶解した状態のものです。自然界では単体として存在せず、オルトケイ酸(H4SiO4)やメタケイ酸(H2SiO3)、メタ二ケイ酸(H2Si2O5)などの形で存在していて、構造はFig2のようになります。

Fig2.おもなケイ酸の構造

オルトケイ酸の構造は、Siの4つの手にOHがついた形です。しかし、このOH基は非常に活性が高くすぐに脱水縮合してシリカ(SiO2)が形成されます。シリカコロイド粒子は、このオルトケイ酸モノマーから脱水縮合してケイ酸ダイマー、オリゴマーを経て球状粒子が形成されると考えられています。

Fig3.ケイ酸モノマーとシリカコロイド粒子

一方、植物にはメタケイ酸で取り込まれていると考えられていて、植物に対するケイ酸はメタケイ酸を指す場合が多いです。

植物とケイ酸

高橋は、植物のケイ酸吸収性から能動型、受動型、排除型に区分しています4)

能動型

イネ、トクサなどは典型的なケイ酸集積植物であり、ケイ酸の吸収は好気呼吸にリンクして行なわれます。

好気呼吸

植物の呼吸には、酸素を必要とする好気呼吸と、酸素のない条件下で行なわれる嫌気呼吸の2種類があります。

好気呼吸は、酸素を取り込みブドウ糖などの炭水化物を二酸化炭素と水に酸化分解し、その過程で取り除かれた水素が電子伝達系を動かすことにより、新たな組織の構成や生命の維持に必要なエネルギーをATP(アデノシン三リン酸)の形で得る反応です。

好気呼吸では、1分子のグルコースから2分子のピルビン酸が生成されます。 反応過程で脱水素酵素のはたらきにより 4[H]が切り離され、補酵素NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に結合し、電子伝達系に運ばれます。 また、2ATPが分解され、4ATPが合成されるため、差し引き2ATPが生成されます。

Fig5.好気呼吸におけるグルコースからATPの生成経路7)

受動型

周りのケイ酸濃度が高くなると積極的にケイ酸を吸収するタイプの植物で、キュウリは水耕液のケイ酸濃度が高いときにケイ酸含有量はかなり高くなります。

Photo2. きゅうり8)

排除型

トマトのような排除型では、根のまわりでケイ酸が濾別されて内部に入りにくいため地上部のケイ酸含量は低くなります。

排除型は、根を切除するとケイ酸吸収性は受動型になります。

Photo3. トマト9)

Fig4.排除型のケイ酸除去のメカニズム(イメージ)10)

シリカを多量に含む植物

シリカを多量に含む植物には、珪藻をはじめトクサ、イネなどがあります。

珪藻

珪藻は、不等毛植物に含まれる単細胞性の藻類のグループで植物の1種に分類されます。

珪酸質の2枚の被殻で被われた単細胞の真核藻類で、海洋や陸水域(湖沼や河川)などに幅広く分布しています。殻の表面には、極めて小さな穴が規則的に開いており、幾何学的で美しい模様を形作っています。

珪藻の分類は、この殻の模様によって行なわれています。最近では光学顕微鏡に加えて電子顕微鏡を使い、非常に小さな突起の有無や形、配列など殻の微細な構造を重視して分類が行われています。11)

Photo4.いろいろな珪藻の構造と電子顕微鏡写真12)

珪藻は、母細胞の殻の中に新しい殻を作ることにより、分裂を繰り返して増殖します。娘細胞は、母細胞より小さくなります。分裂を繰り返すことにより、細胞はどんどん小さくなっていきますが、ある時期になると卵と精子が作られたり、細胞がアメーバ状に移動し接合したりして、有性生殖を行います。有性生殖の結果、新たに作られる細胞は増大胞子と呼ばれ、大きな細胞になります。こうして、珪藻は、細胞の大きさを元に戻します。また、おもに沿岸域や湖沼に生息する珪藻のなかには、休眠するか、休眠のための細胞「休眠細胞」を形成して海底や湖底に沈積し、栄養の枯渇や生息環境の悪化に耐える種類もあります。

珪藻は比較的新しく出現した生物群で、最も古い化石でも中生代の白亜紀(ジュラ紀という説もある)から発見されています。珪藻の殻は化石として残り、時には数 10メートルの厚い地層にもなります。化石を調べることでそれらが生育していた過去の環境を知ることもできます。

珪藻の構造

前述のように珪藻は、ケイ酸質の2枚の殻(上殻と下殻)で形成され、それらに付随した数枚の帯(殻帯片)からできた被殻によって包まれています。上殻とそれに付随する殻帯片を合わせて上半被殻、下殻とそれに付随する殻帯片を合わせて下半被殻と呼びます。このため珪藻の被殻は、上半被殻と下半被殻がちょうど弁当箱のふたと中身のように合わさったつくりになっています。

Fig6.珪藻の構造13)

珪藻土

珪藻土は、珪藻が化石化したもので、たくさんの孔がある多孔質体です。形状は珪藻の骨格に依存するため、さまざまなタイプがあります。

一般に珪藻土は、その80~90%がシリカから構成され、純粋な珪殻の成分がシリカのみであることから、その他の金属参加物は、不純物である粘土に由来しています。

工業材料として珪藻土は、その細孔を利用してろ過材をはじめ、排ガス処理剤等に用いられていて、製法により、乾燥品、焼成品、融剤焼成品の3つに大別されます。

詳細については、過去の解説記事でご確認ください。

有ケイ酸植物

ケイ酸を集積する植物の総称で、トクサ、イネなどは有ケイ酸植物に分類されます。

トクサ 

トクサは、学名Equisetum hyemale、英名Common horsetail、別名、木賊、砥草ともいいます。

トクサ科・トクサ属に分類される常緑性のシダ植物で、スギナ(つくし)の仲間で、日本では北海道~本州中部にかけての山間部に自生しています。

和風の雰囲気をもつので、日本庭園の下草や盆栽、生け花など観賞用の目的で栽培されることがよくあります。

トクサは、古くから天然のやすりとして使用されてきていて、現在でもつげ櫛を製造するための歯ずりという研磨工程にはトクサが不可欠で、トクサを用いたものは静電気の起き具合、櫛通り、梳ぎ心地が違うという研究結果もあります。

Photo5.つげ櫛と歯ずりのための道具
右からトクサ、乾燥をしたトクサ、処理をしたトクサ板に貼り付けたトクサ棒14)

参考までに、以下のリンク先で加工の方法や使用方法が動画で確認できます。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=31&v=1KflepIxAjs&embeds_referring_euri=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2Fsearch%3Fq%3D%25E3%2583%2588%25E3%2582%25AF%25E3%2582%25B5%25E3%2580%2580%25E7%25A0%2594%25E7%25A3%25A8%25E5%2589%25A4%26sxsrf%3DAPwXEdfNlQoP51ufFeLbjR9c&source_ve_path=MzY4NDIsMzY4NDIsMzY4NDIsMjg2NjY&feature=emb_logo

トクサの研磨効果

トクサの研磨効果が高いのは、トクサの表皮にはシリカが蓄積していて砥石のように研磨できるからです。Fig7に乾燥トグサの顕微鏡分析の結果を示します。
写真Cのトグサの茎の断面の赤色部分がシリカ層であることからシリカはトグサ表皮の表外層に集中していることが確認できます。

Fig7.乾燥トグサ(Equisetum hyemale)の顕微鏡分析15)
(a) 茎の断面の光学顕微鏡写真。
(b) 表皮断面のSEM像
(c) (b)のケイ素(シリカ)の分布(赤色部分)

一般的にシリカのモース硬度は6~7程度で、ナイフで傷をつけることができない程度の硬さです。また、トクサは150番の紙やすり程度の研磨効果があるといわれています。16

また、歯のモース硬度も7程度であることから、微粒子の合成シリカは、歯の研磨剤、清掃剤として歯磨き剤に添加されています。最近では研磨力を抑えて歯のステインの除去力(清掃力)を高めた合成シリカを配合した歯磨き剤も上市されています。

イネ

イネ科の植物で、植物界・被子植物門・単子葉植物網・イネ目・イネ科・イネ属・イネに分類され、その収穫物はいうまでもなくお米です。

イネのような有ケイ酸植物にケイ酸が吸収されると、特定の細胞の細胞壁に蓄積しガラス質の細胞体を形成します。イネに吸収されたケイ酸は葉の表皮組織の一番外側にあるクチクラ層の下に集積して、ケイ酸だけで組織された固いシリカ層と、外側の細胞膜の間隙がケイ酸で充たされたシリカセルローズ膜をつくります。このクチクラ・シリカ二重層を有する細胞は通称ケイ化細胞と呼ばれます。

Fig8.イネの葉の構造模式図17)

ケイ酸とケイ化細胞のはたらき

このケイ化細胞のはたらきは次のようなはたらきがあります。

・水分のむだな蒸散を抑える
・強靭化された組織により病原菌の侵入と害虫の食害を阻止するいわゆる病虫害抵抗力が強まる。
・茎が丈夫になり、葉が直立し受光態勢が良くなって光合成が盛んで、登熟が向上し、倒伏に強い。
・もみ殻のケイ酸含有率が高くなるので、斑点米の原因となるカメムシの食害を受けにくくなる

このため、ケイ酸供給能の低い土壌ではケイ酸の施用によって玄米収量が増加し、米の品質が向上します。

近年、灌漑水中のケイ酸濃度の低下が報告されていることもあり、特に冷害年にケイ酸吸収量が低下しやすい寒冷地の水田では、ケイ酸質肥料の施用によるケイ酸の補給が重要視されています。

ケイ酸の供給メカニズム

水田で栽培されるイネを水稲といいます。日本のコメ作りの大部分はこの方法で栽培されています。

イネはケイ酸植物と言われるように、収穫されるまで多量のケイ酸を必要とします。

Fig8に示すようにイネへのケイ酸吸収率を100%とした場合、灌漑水の流入からのケイ酸が40~60%で、土壌からの溶出ケイ酸が40~80%で占められます。特に水稲に必要なケイ酸は、灌漑水から供給される比率が多くなります。

水からイネにケイ酸が含有されるメカニズムは、まず雨や雪の形で地表面に降った水が地下に浸透して地下水となります。地下水は、長い年月を経て地層を潜り抜けて地表に流出して河川や池、湖などの地表水を形成します。このとき地層から地表水へ溶け出したケイ酸は、灌漑水と一緒に供給されます。

特に、田んぼにおいてはケイ酸の約半分は河川水から補給されます。

なお、灌漑水のケイ酸含有量が低い場合は、土壌からのケイ酸溶出量が高くなり、バランスを取ろうとします。

Fig9.イネへのケイ酸供給源と吸収されたケイ酸の体内分配模式図(ケイ酸吸収量を100%とする場合)17)

ケイ酸質肥料

イネに対してケイ素(Si)は必須元素でないのにもかかわらず、ケイ酸は(SiO2)イネの生育を良好にすることが研究で確かめられいます。18)このため多くのケイ酸質肥料が施肥されるようになりまた。

ケイ酸質肥料とは、肥料取締法に基づく肥料の種別名です。肥料取締法に基づく肥料公定規格では金属酸化物等の不純物を含まないシリカゲル肥料、シリカヒドロゲル肥料、金属参加物を含む鉱さいケイ酸質肥料、軽量気泡コンクリート粉末肥料、けい灰石肥料に分類されます。

シリカゲル

シリカゲルは、非結晶性の水和ケイ酸の微粒子(シリカ一次粒子)が凝集した構造を有しているため、ケイ酸含有率が99.7%と高く、アルカリ分等の副成分をほとんど含まないので、肥料のpHは4.5〜5.5程度と低い。そのため、イネの育苗箱施用に適し、健苗育成や苗のいもち病の発病抑制、移植後の活着、初期生育の促進効果が期待できるといわれています。

Fig10.シリカゲルの粒子構造(イメージ)

Table1.シリカゲルの代表的化学組成19)

シリカヒドロゲル

ヒドロゲル(ハイドロゲル)とは水を媒体とするゲルの総称です。シリカヒドロゲルは文字通りシリカ骨格中に水を含んだ状態でゲル化したものとなります。

Fig11.シリカヒドロゲルの構造(イメージ)

2003年に規格が新設された肥料であり、可溶性ケイ酸は17%以上で、シリカゲルと異なり水分が70~80%程度と多くの水を含みます。溶解が比較的速いので、本田での流し込み施肥や養液栽培などへ利用されています。

シリカゲル肥料と異なる点は、乾燥工程前のシリカゲル(シリカヒドロゲル)のため、水への溶解度が高いのが特徴です。

Fig12.シリカゲルの製法とシリカヒドロゲル

Photo6.球状シリカヒドロゲルの一例とその拡大写真20)

Table2.シリカゲルとシリカヒドロゲルの含水率

シリカヒドロゲル肥料は、ウオーターシリカという名称で富士シリシア化学(株)が製造、片倉コープアグリにて販売されています。

http://www.katakuraco-op.com/site_fertilizer/products/a_silicagel.html

鉱さいケイ酸質肥料

鉄鋼などの生産過程で生成する鉱さいを原料とするため、ケイ酸のほかにアルカリ分(カルシウムやマグネシウム)を含むので、ケイ酸石灰肥料(ケイカル)と呼ばれていて、マンガンやホウ素を含むものもあります。水に対する溶解性は極めて低いが、水田土壌中では、土壌有機物の分解や根の呼吸によって発生する二酸化炭素の中和効果や土壌のpH緩衝能によって溶解が持続するのが特徴で、土壌の酸度矯正効果や微量要素の補給効果も期待できるので土づくり肥料としても使用されます。

軽量気泡コンクリート粉末肥料

建築用軽量壁材の規格外品を粉砕して得られるもので、主成分は多孔質ケイ酸カルシウム水和物の一種トバモライトです。

保証成分量は、可溶性ケイ酸、アルカリ分ともに15%以上であり、ケイカルに比べてアルカリ分が少ないが、含有されるカルシウムが溶解しやすく、強いアルカリ性肥料であるので施肥むらには注意する必要があります。この肥料に含まれるケイ酸は水に対する溶解性が高いため、イネによる利用率も60〜70%と高いのが特徴です。更に、追肥した場合でも高い効果があります。

けい灰石肥料

天然の鉱物であるケイ灰石(CaSiO3)を粉砕したけい灰石の粉末をいう。主成分はメタケイ酸カルシウムであり、可溶性ケイ酸20%以上、アルカリ分25%以上を含みます。

植物由来のシリカ

プラントオパール

プラントオパールとは別名植物珪酸体化石といいます。イネをはじめススキ、タケといったイネ科やドングリが実るブナ科など、根から吸収した水に含まれるケイ酸を自分の細胞(主に表皮細胞)の細胞壁に蓄積する性質を持つ植物だけが残す、細胞の形をした化石(細胞化石)のことです。

プラントオパールはシリカの一種でその形状や大きさは植物によって異なりますが、大きいもので100µm程度です。また、シリカのため化学的・物理的な風化に強く、数万年は消失することはありません。このため植物が枯れた後も土壌中に半永久的に残っていて、特にイネ科植物はプラントオパールが残りやすく、稲作の起源を探る考古学の研究に重要な証拠となっています。

Photo6.プラントオパールの光学顕微鏡写真と電子顕微鏡写真17)

もみ殻シリカ

もみ殻

Fig13にお米の構造を示します。お米は、外側からもみ殻。果皮、種皮、糊粉層、胚乳、胚芽という順番の構造で形成されています。もみ殻から内側の部分は玄米で、果皮、種皮、糊粉層の部分をぬかとよび、精米によりこのぬかの部分を除去したものが白米となります。

Fig13.お米の断面図21)

もみ殻(籾殻)とは、稲の実の外皮。籾米をついて玄米を得たあとの殻で別名、あらぬか、すりぬか、もみともいいます。もみ殻は、籾すりの時点で全体の20%が排出されます。

Photo7.もみ殻と玄米22)

これまでは田んぼや畑にそのまま撒いたり、家畜農家では敷料として利用されてきました。

しかし、もみ殻は固く、分解されにくい性質のため、もみ殻を焼き「燻炭」にして、田んぼに撒く方法も行われてきましたが、肥料の効能や性質が安定せず、また安全性の問題もあり、普及には至っていません。

更に、近年では野焼きの制限や臭気の問題で、もみ殻の処理が困難になり、現在では農家にとっては費用のかかる農業廃棄物となっています。

もみ殻の利用

もみ殻は年200万トン排出されていて、おもに土地改良材、堆肥、畜産敷料に使用されていますが、このうち20%が廃棄処分になるため、40万トンのもみ殻が毎年廃棄されているということになります。

Fig14.もみ殻の利用状況23)

もみ殻の成分

先にも述べたように、もみ殻は有ケイ酸植物のイネ由来であるため20%シリカが含まれていて、あとは炭水化物75%、カリウム、カルシウム、マンガン鉄等のミネラル分5%になります(Fig15)。

Fig15.もみ殻の成分24)

合成シリカ原料としての活用

もみ殻シリカは、SDGSの観点から合成シリカの原材料として注目されています。

世界有数のシリカ製造会社であるエボニック インダストリーズ(本社:ドイツ、エッセン 以下「エボニック」)では、ペルナーグループ(PörnerGroup、オーストリア)、ピチット・バイオパワー社(Phichit Bio Power Co., Ltd.、タイ)と戦略的提携を結び、バイオベース原料シリカ「ULTRASIL ®(ウルトラジル)」をタイヤメーカーに供給するといいます。

この新製品の鍵となる原料のケイ酸ナトリウムは、農業副産物であり、グリーンエネルギーで得られるもみ殻灰(RHA: Rice Husk Ash)から製造されます。

このプロセスの特徴は、もみ殻の燃焼によるバイオマス発電所で得られる灰をベースにしていて、その灰からタイヤ業界で使用されるシリカの原料となる高品質のケイ酸ナトリウムを製造します。今回の提携により、バイオシリケートを工業規模で製造することが可能となり、従来のプロセスに比べてCO2排出量を大幅に削減することができることから、世界のケイ酸ナトリウム加工産業の脱炭素化に踏み出していますとコメントしています。25)

のプロセスは、もみ殻を燃焼させた熱や発電した電気を用いてケイ酸ソーダを作る方法です。

コジェネレーションとは熱電併給ともいい、発電した時に生じる廃熱も同時に回収するシステムです。Fig16にコジェネレーションシステムを用いたケイ酸ソーダ製造プロセスを示します。

Fig16.もみ殻を原料としたコジェネレーションシステムを用いたケイ酸ソーダ製造プロセス

※Evonik社のプレスリリース記事をもとに筆者作成。

もみ殻を燃焼することでシリカ焼却灰が得られます。このシリカ焼却灰に苛性ソーダを加えて加圧、加熱をすることで溶解させてケイ酸ソーダが得られます。このとき工程に使用する熱と電気がもみ殻の燃焼によるコジェネレーションシステム由来のものとなりますので、エネルギー使用量とCO2排出量は抑えられます。

また、燃料となるもみ殻は植物由来であることからカーボンオフセットによりCO2排出量はゼロとなります。

更に、従来のケイ砂を用いた工程では、カレットを作成する際に1300℃程度の温度が必要(Fig17)となりますが、もみ殻シリカを用いた工程ではこの工程が不要となります。

Fig17.ケイ砂を用いたケイ酸ソーダの製造方法(従来法)

まとめ

植物とシリカは非常に密接な関係があり、ケイ酸吸収性から能動型、受動型、排除型に区分されています。トクサとかイネなどの有ケイ酸植物は能動型に属し、ケイ酸の蓄積は好気呼吸により行われます。

ケイ酸とは、シリカが水中で溶解した状態のものです。自然界では単体として存在せず、オルトケイ酸(H4SiO4)やメタケイ酸(H2SiO3)、メタ二ケイ酸(H2Si2O5)などの形で存在していて、植物ではメタケイ酸の状態で取り込まれているといわれています。

シリカを多量に含む植物には、珪藻をはじめトクサ、イネなどがあります。

珪藻は、不等毛植物に含まれる単細胞性の藻類のグループで植物の1種に分類され、さまざまな形のものがあります。弁当箱のような構造をしていて、ケイ酸質の2枚の殻(上殻と下殻)で形成され、それらに付随した数枚の帯(殻帯片)からできた被殻によって包まれています。

珪藻土は、珪藻が化石化したもので、工業材料として、その細孔を利用したろ過材をはじめ、排ガス処理剤等に用いられていて、製法により、乾燥品、焼成品、融剤焼成品の3つに大別されます。

有ケイ酸植物とは、ケイ酸を集積する植物の総称で、トクサ、イネなどは有ケイ酸植物の一種です。

トクサは、ケイ酸質を大量に含むことから古くから天然のやすりとして使用されてきていて、現在でもつげ櫛を製造するための歯ずりという研磨工程にはトクサが不可欠で、トクサを用いたものは静電気の起き具合、櫛通り、梳ぎ心地が違うという研究結果もあります。

イネは、最も身近な有ケイ酸植物です。ケイ酸が吸収されると、特定の細胞の細胞壁に蓄積しガラス質の細胞体を形成してケイ酸だけで組織された固いシリカ層と、外側の細胞膜の間隙がケイ酸で充たされたシリカセルローズ膜をつくります。このクチクラ・シリカ二重層を有する細胞は通称ケイ化細胞と呼ばれます。イネに対してケイ素(Si)は必須元素でないのにもかかわらず、イネは、最も身近な有ケイ酸植物です。

イネに対してケイ素(Si)は必須元素でないのにもかかわらず、ケイ酸は(SiO2)イネの生育を良好にすることが研究で確かめられいます。このため多くのケイ酸質肥料が施肥されるようになり、シリカゲルやシリカヒドロゲルといったシリカ純度の高い肥料も上市されています。

また、脱穀時に発生するもみ殻には、シリカが20%程度含まれていて、合成シリカを製造するための原料としてのリサイクルが進められています。なかでもEvonik社では、コジェネレーションシステムを用いたもみ殻からのケイ酸ソーダ製造システムを確立し、このケイ酸ソーダから製造した沈降性シリカが上市されています。

このように植物とシリカは非常に密接な関係があり、最近ではリサイクルも進んでいてCO2削減にも貢献しています。

参考文献

1)テーマパーク8020 https://www.jda.or.jp/park/prevent/index05_02.html
2)高橋 英一 元素からみた生物の世界Journal of Pesticide Science 17 (4) November p. s295 (1992)
3)北野康:科学の目で見る地球の環境-空・水・土- (1992),p47
4)高橋英一 元素からみた生物の世界Journal of Pesticide Science 17 (4) November p. s295 (1992)
5)Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%82%AF%E3%82%B5
6)(株)マイナビ https://agri.mynavi.jp/2021_06_03_158335/
7)きぃくんの 高校生物学講座 http://biolokii.web.fc2.com/files2/005.html
8)JAグループ https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=2
9)語源由来辞典 https://gogen-yurai.jp/tomato/
10)根・茎のつくりhttp://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/shokubutu4.htmlをもとに筆者加筆
11)珪藻 https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/bikaseki/2-keiso.html
12)光合成辞典 https://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E7%8F%AA%E8%97%BB
13)珪藻の世界 ミクロの宝石 -観察と分類‐ p.6
14)つげ櫛製造工程 https://kusitome.com/seizoufu.htm
15)S. Sugiyama et. al Roles of silica and lignin in horsetail (Equisetum hyemale), with special reference to mechanical properties Journal of Applied Physics 111(4) p. (2012)
16)トクサの研究-伝統工芸に見る磨きの技の謎に迫る- https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=181
17)「化学肥料に関する知識」 BSI 生物科学研究所 File No. 22 植物とケイ酸
http://bsikagaku.jp/f-knowledge/knowledge22.pdf
18)三宅靖人 総説 土壌の活性とケイ酸 岡山大学農学報 (81) p. 64 (1993)
19)フジシリカゲルカタログ 富士シリシア化学(株)p.3 (2017)
20)Ⅰ 肥料写真集 1.7 ケイ酸質肥料 I-28(2020)
21)大地の贈り物 https://daichinookurimono.com/
22)Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%BE%E6%AE%BB
23)高機能性素材の原料の供給可能性について 農林水産技術会事務局研究推進課産学連携室 p.2(平成26年3月18日)
24)立田ら もみ殻の完全循環利用による自然循環型農業の確立 第23回廃棄物資源循環学会研究発表会講演集
25)Evonik社プレスリリース https://corporate.evonik.jp/ja/-178109.html

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