先日、安全スタップという専門誌の4月号の実務相談室に洗剤の混合事故防止について、専門家の目線で執筆させていただきました。安全スタッフは、安全衛生を担当されている方向けの雑誌で、労働新聞社から月2回発行されています。執筆の内容は、洗剤のうち混ぜると危険なものについて、実際に作業されている方が見分けるためのポイントについて書かせていただきました。
みなさまも普段洗剤を取り扱う機会が多いと思いますので、投稿原稿をもとに再編集してみました。ご参考にしていただければ幸いです。
洗剤を混ぜることによる事故のほとんどは、その洗剤の特徴を押さえ、適切な対応をすることで回避できます!
洗剤の特徴
洗剤は正式には洗浄剤といいます。洗浄剤は、酸、アルカリまたは酸化剤および洗浄補助剤その他の添加剤からなり、その洗浄の作用が化学作用によるもので研磨剤を含まないものと定義されています。 ちなみに、漂白剤は洗浄剤の一部として定義されています。
法律上の定義
家庭用品品質表示法(以下、法)では、必ず「洗浄剤」を付記する ことが定められていて、具体的には浴室用、カビ取り用洗浄剤のように 用途を明確に表示する必要があります。どのような洗浄剤も混合による使用は想定されていないため、2種類以上を混ぜたり、前後に続けて使用したり、詰替えなど指定された容器以外への移替えは絶対に行ってはいけません。
消費者庁HP 住宅用又は家具用の洗浄剤https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/zakka/zakka_06.html
塩素系と酸系
混合すると非常に毒性の強い塩素ガスが発生します。塩素ガスは空気中の濃度14ppm辺りで呼吸困難を発生し、40ppmとなると、ごく短時間で死亡するといわれています。つまり10㎥の空間に140ml程度の塩素ガスが発生しただけで呼吸困難になることになります。また、塩素は空気より重いウため床下に溜まりやすく、トイレ掃除等かがんだ姿勢で作業を行う場合に注意が必要です。
図1.トイレ掃除のイメージ
現在は、すべての家庭向け.製品業務用洗剤の表ラベルに「まぜるな危険」の表示が義務付けられています。また、これらの洗浄剤は、法の中で、ラベルの大きさ、フォントの大きさ、警告内容が特別注意事項として細かく指定されていて、ラベルの「酸性タイプ」、「塩素系」の表記が分類のポイントとなります。また、次亜塩素酸塩水溶液と酸性溶液との混合による事故に対しては、 通達( 平 1 6 – 1 1 – 2 基安発1102003号)が出されています。
通達HP
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-45/hor1-45-34-1-0.htm
この通達を受けて、日本食品洗浄剤衛生協会の各種業務用洗浄剤の表示に関するガイドラインでは、以下のように表記を行うことが定められています。
塩素系洗浄剤
イ まぜるな危険
ロ 塩素系
ハ 以下4項目
①酸性タイプの製品と一緒に使う(まぜる)と有害な塩素ガスが出て危険である旨
②目に入った時は,すぐに水で洗う旨
③子供の手に触れないようにする旨
④必ず換気を良くして使用する旨
酸性タイプ洗浄剤
イ まぜるな危険
ロ 酸性タイプ
ハ
①塩素系の製品と一緒に使う(まぜる)と有害な塩素ガスが出て危険である旨。
②目に入った時は,すぐに水で洗う旨。
③子供の手に触れないようにする旨。
④必ず換気を良くして使用する旨。
図2. 表示イメージ
写真1. 「混ぜるな危険」の商品への表示例
その他の危険な組み合わせ
酸系や塩素系の洗浄剤にアルコールやアンモニア等が混ざっても有害なガスが発生します。また、酸系やアルカリ系の洗浄剤がアルミに接触すると水素が発生して、フ夕などで密封された容器が爆発したり、容器が溶けて洗浄剤が漏れ出てやけどをする危険があります。
管理方法
保管時、作業時において以下の項目に留意してください。
保管等
納入された混合不可の薬品類は、現場の保管場所を明確に分けて管理することも重要です。さらに、作業マニュアルの整備と教育、作業開始前の指差し確認等も必要です。
作業時
作業開始前には、まずラベルの表示を確認する。ただし、業務用や契約した納入容器では表示が不十分な場合があります。この場合は事業場で基準を決めて法と同様のラベルの貼付を行うようにしてください。とくに酸、塩素の表示があるものには注意を払うことがポイントです。
まとめ
洗浄剤は非常に便利なものですが、使い方を誤ると人体や環境に悪影響を及ぼし、過去には死亡事故も発生しております。このため、作業手順を設けて、危険性を理解した上で作業を行うことが重要です。更に、薬品の危険性や取り扱い手順を公表すると、残念ながら意図しない方向で使用されたりすることがあります。インターネットで情報が得られやすくなった昨今、薬品の危険性ばかりでなく、危険を啓蒙するための情報が意図した方向に使用されないケースがあり、個々のモラルを高めるための教育も重要な課題です。これらの課題解決も、われわれのような専門家の使命と私は考えています。
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